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第901話
問われた言葉の意味が分からなくて、オレは首を傾げた。でも、この部屋から無くなってしまって、更にはもう使うことができなくなる物が二つあることに後から気がついたオレは、迫られた選択に頭を悩ませていく。
「ソファーもベッドも、引越したら新しいのに変わっちまうから。お前はこの部屋での最後、どっちで俺に抱かれたい?」
「いや、えっと……」
どっちで、なんて。
恥ずかしくて、オレが答えられるわけがないのに。
与えられた選択肢は変わることがないまま、雪夜さんはオレとの距離を詰めてきて。
「星くん、どうする?」
抱き寄せられて囁かれた声はとてつもなく甘く、それだけで蕩けてしまいそうなオレはぎゅっと目を瞑ることしかできない。
それなのに、オレの耳に唇を寄せた雪夜さんはとってもとっても意地悪だったんだ。
「あと10秒やっから、その間にどっちにするか答えろ。もう俺、待てねぇーから」
「え、ちょっ……待って、待ってください!」
たぶん、おそらく、ううん……絶対。
ソファーか、ベッドか、どちらか一方を選んだところでオレがこれから雪夜さんとする行為はひとつなわけで。
オレだって、そういうことしたくないわけじゃないんだけど……なんて思っているあいだにも、雪夜さんの手は宣言通り大人しく待っていてはくれなくて。
「10、9、8、7……」
「えーっ!?」
待てができない恋人に振り回され、オレが色々と考えているうちにも、雪夜さんのカウントダウンは始まってしまったのに。
オレの背中に回された手が背筋を撫でて下へと降りていく感覚に、オレは気を取られてしまうんだ。早くどっちにするか答えなきゃって、そう思えば思うほど、オレの頭は働かなくなってしまって。
「んっ…」
もう、どっちでも構わないからと。
オレが自分自身に匙を投げてしまった時、オレの口からは甘ったるい声が漏れていた。
そして。
「……3、2、1、ゼロ」
雪夜さんのカウントは止み、同時にオレに触れていた雪夜さんの手の動きも止まった。それがなんだか寂しく感じて、オレは閉じていた瞼を開けて雪夜さんへと視線を向けるけれど。
「せっかく選ばせてやったのに、星くん答えねぇーからどっちでもヤんぞ」
「そんなっ、ムリですよ!雪夜さんはいいかもしれないですけど、オレの体力がもたない……って、あの、聞いてます!?」
軽々と宙に浮くオレの身体は雪夜さんに抱えられて、抵抗する暇もなくオレはソファーに押し倒されてしまった。
「……星、今からすることに拒否権ねぇーから」
「ゆきっ…ん、ぁ」
名を呼ぶ前に奪われたオレの唇は、雪夜さんの唇と重なっていく。この部屋での最初、雪夜さんに言われたものと同じ言葉を残して。微笑んだ雪夜さんの首に腕を回したオレは、 そっと瞳を閉じていった。
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