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第909話

「……ったく、可愛い顔して寝やがって」 俺の隣で眠る星の頬をつつき、そう呟いた俺は煙草を咥えた。ソファーとベッド、あとは積まれたダンボールの上に乗っているステラを眺めて。ガランとした何も無い空間で、ぼんやりと思うことは沢山ある。 繋がって得られた幸せを抱き締めるように眠る星くんを照らすのは、部屋に射し込む柔らかい月の光。 散々ヤって、愛を伝えて。 それでも足りずに俺が伸ばす腕はきっと、明日のお前を抱き寄せるだろうから。今はゆっくり、安らぎの中で幸せを感じてほしい。 星のことを思い、お前のために日々を過ごして。会えない時間も心のどこかで、常にお前のことを思っている。そんな俺は、誰よりも星のことを愛しているから。 この先、もしもお前が俺以外の人間を見つめることがあったとしても。俺の眼に映るのは、今と変わらずに一生お前だけだと思う。 他人と身体を繋げるだけでは分からなかった尊さを知って、自分より大切に想えるお前に助けられて。小さなこの手に、沢山の愛と夢を持っている星は俺の支えとなり、どんな時でも道しるべとして心の中に存在する。 前を向いて、伴に歩んでいけるように。 がむしゃらに、そしてひたむきに……描いた未来が形になろうとしている今、俺が感じている不安をお前も持っているんだろうか。 人の心変わりは、保証できるものでは無い。 どんなに好きな相手でも、何かのキッカケでソレは簡単に壊れていく。今は俺の傍にいるお前が、そのうち消えてなくなってしまうんじゃないかと……何もない部屋を見渡した俺は、そんな不安を抱えているけれど。 眠り姫が目覚める頃には、穏やかな気持ちで笑っていたくて。部屋の荷物だけでなく、俺は自分なりに気持ちの整理をつけなければならないのだと感じるから。 「嫌いになんてなれねぇーよ、星くん」 近い将来、遠い未来。 もしも、お前が俺の手から離れたいと願う日がくるとしても。そう望む星のことを、俺がどれだけ嫌いになろうと努力したとしても。 どんなに頑張っても、俺が星を嫌える日は永遠に訪れることはないと思う。だから、だからどうかこのまま……お前の想いが、俺と同じでありますように。 「こんなどうしようもない俺を愛してくれるお前は、俺には勿体ないくらいのいい男だ」 星には届かない言葉を送り、紫煙を吐き出した俺は愛らしい仔猫の頭を撫でる。 いつまでも情けなくて、自分に強がってばかりいる俺を愛してくれる恋人。もしものことを考えて、アホみたいに不安になるこんな俺だけれど。 隣で眠りに就く時は、そんな不安すら消してくれるお前がいるから。そっと消した煙草の火と共に、俺の中の小さな孤独感は失われて。 明日の二人は笑い合っているんだろうと、俺はそんなことを思いながら星を抱き締め眠りに就いた。

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