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第911話
一番。
それは、望んでも手に入らないことの方が多い世の中なのに。俺を見つめて微笑むコイツの一番になれることが、俺は単純に嬉しいと思った。
誰かの中の一番ではなく、星の中の一番。
できれば心変わりすることなく、これからも俺を一番にしてほしい。お前の中では永遠に、俺がトップであり続けられるよう努力は惜しまないから。
……なんて、心の内は見せらんねぇーけど。
「んー、あ……オレ、分かっちゃいました」
カフェオレを飲んで、サンドウィッチを頬張って。得意気にそう言った仔猫さんは、唇についたマヨネーズをペロっと舐め取り腕を組む。
「どったの、星くん?」
えっへん、なんて音が出そうな程に可愛らしい仕草をしている星。そんな星くんの意見を聞いてやるため、俺は飲んでいたホットコーヒーをテーブルに置き星と向き合うことにした。
「あのね、世の中には色んな美味しい物があるじゃないですか?でも、それが本当に美味しく感じるのは雪夜さんと一緒に食べる時だと思うんです」
「俺と、一緒に?」
「うん。好きな人と一緒に食べるから、色んな料理が美味しく感じるんだなぁって実感したんですよ」
ふふっと嬉しそうに笑ってカフェオレを飲んだ後、星は話を続けていく。
「ランさんに、言われたことがあるんです。食事をする時に本当に美味しく感じる瞬間っていうのは、その場の雰囲気や食事を共にしていると作り上げるものだって……オレ、なんとなくそのことを分かっていたつもりだったんですけど。やっと今、分かった気がするんです」
「なるほどな、確かにそれはあるかもしんねぇーわ。同じモーニングセットでも、こうしてお前と一緒に食う方が美味く感じるし」
サンドウィッチも、ホットドッグも。
この店のモーニングを独りで食べている時より、星がいる時の方が圧倒的に美味く感じる。
「幸せ、ですよね」
「そうだな」
幸せな味、幸せな時。
それを感じられる瞬間があることが、幸せなことのように思う。豪華な食事じゃなくても、二人で手作りした料理じゃなくても。二人で摂る朝食が美味しいと感じられるのは、星が笑って俺の隣にいてくれるからなんだ。
それは、当たり前のことなのかもしれない。
当たり前だけれど、幸せな時が幸せだと感じられない時だって俺たち人間にはあるから。
小さな幸せに気づくことが出来る星と、笑い合って過ごせる時間がとても尊いものだと感じた。
「ホットドッグ、オレもひと口ほしいです」
「ん、じゃあお前のサンドウィッチも俺にひと口ちょーだい」
二人で幸せを感じて、お互いが食べている物を交換して。穏やかに過ぎていく時に感謝しつつ、俺たちは今日の予定について話し合っていた。
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