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第914話
「こんなに可愛い告白を受けるのは初めてだよ、せい。これからも、俺を好きでいてください……あと、俺もせいを好きでいさせてね?」
「ありがとう、兄ちゃん」
ふふっと笑った兄ちゃんに、オレが本当に伝えたい気持ちは感謝なんだと思う。オレが迷った時、困った時、どんな時でもそっとオレを支えてくれた兄ちゃん。
ありがとうって、たくさん言ってきた言葉なのかもしれないけれど。言いそびれてしまった時の分も、オレは今日の想いにすべてを込めて。
「卒業ってさ、旅立つ本人よりも見送る側の方が感動するのかもしれない。なんか、ダメだね……俺この先こんなんで先生やれるのかな、涙止まんないや」
オレから顔を背けて、そう呟いた兄ちゃんの頬を濡らす一筋の涙はとても綺麗で。兄ちゃん自身の手で拭われてしまうソレが惜しく感じたオレは、無意識に兄ちゃんの頬に手を添えていた。
「……せい?」
少しだけ、驚いた様子の兄ちゃん。
そんな兄ちゃんがやたらと可愛く見えて、オレはクスッと笑ってしまうけれど。
「兄ちゃん、泣かないで。兄ちゃんには笑顔の方が似合うから……ほら、笑って見せて?」
不思議と自然に出てきた言葉に、内心オレはかなりビックリした。でも、ここでそのことを表に出すのはよくない気がしたオレは、兄ちゃんの涙を親指で拭う。
すると、兄ちゃんの涙がぴたりと止まって。
ちょっぴり恥ずかしそうに微笑んでくれた兄ちゃんは、オレにこう言ってきたんだ。
「お兄さんは、弟の将来が心配……いや、この場合はユキちゃんが心配って言った方がいいのかな?」
「……え、何の話?」
オレの手を取り頬から離して、扉の前からベッドへと移動していく兄ちゃん。ポスッと音を立てて腰掛けたベッドの上で腕を組んだ兄ちゃんからは、さっきまでの可愛らしい雰囲気が完全に失われているけれど。
「せいがね、可愛いだけじゃなくて随分と男前に成長しちゃったなぁって話。俺、ちょっとキュンってしちゃったもん。せい自身も知らないうちに、ユキちゃんの色気が伝染ってきてる気がする」
そう言った兄ちゃんは、オレを見てニヤリと笑うから。オレは少し考え込むと、兄ちゃんの意見をやんわりと否定する。
「んー、でも雪夜さんはオレに泣かないでなんて言わないよ?それに、雪夜さんはもっといっぱい優しい言葉を掛けてくれるし、もっともっと甘やかしてくれる」
「うん、分かってない感じはやっぱり天然モノだ。この魅力に魅了されるこっちの身にもなってほしいものだよ、もう本当の悪魔はせいで確定だね」
「オレは、成長して悪魔になったの?このあいだ、雪夜さんがオレは天使だって言ってくれたのに……って、あ!!」
天使でも、悪魔でも。
今は、そんなことどうだっていいってことをオレはすっかり忘れていた。
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