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第918話

出席番号順で誠君と健史君のあいだに挟まれ、重要な役割を果たしてくれたのは西野君だったらしい。卒業式なんて面倒だからと、もしかしたら欠席するかもしれなかった二人。でも、そんな二人がオレの前にちゃんと居てくれることが嬉しくて。 オレと同じ花を胸に付けたままの二人の姿が、サヨナラの時を感じさせていく。 「……青月との賭け、負けちまった」 誠君のネクタイを見つめ、そう呟いた健史君は穏やかに笑う。一緒に卒業しようねって、ここで交わしたあの日の約束を忘れないでいてくれた健史君。 「俺からは、いくらチビちゃんに支払えばいいんだ?俺ってさ、賭け金いくらに設定してた?」 すんなり負けを認めている様子の誠君は、卒業できたことよりも金額重視のようで。 「そのことなんだけどね、お金はいらないよ。でも、賭けに勝ったのはオレだから……だから、オレのお願いをに二人にきいてほしんだ」 ここで三人で過ごした日々が、また訪れることはないけれど。卒業の日を迎えた二人に、ひとつだけオレからのお願いがあって。それを賭け金として二人から貰えたら嬉しいなと思っていたオレは、実はかなり前からこの時を待っていた。 「青月からのお願いって、何言われるか分かんねぇから金取られるより怖いかも」 「チビちゃん、お願いってなに?」 卒業の日、学校生活の思い出を詰め込んで……好きな人から、受け取りたい物。友達同士だから、意味合いは違ってしまうと思うけれど。それでも、オレには欲しい物があるから。 オレは軽く深呼吸して、卒業生として佇む二人にこう言ったんだ。 「第二ボタン、ちょうだい?」 一瞬、ポカーンとした表情を見せた二人はお互いに顔を見合わせた後、思い切り大笑いし始めて。 「ちょっ、え、何がそんなにおかしいのっ!?」 お腹を抱えて笑う二人にバカにされた気分のオレは、顔を赤くし誠君と健史君にそう問い掛けた。 「今どき第二ボタンとか、女でも欲しがるヤツいねぇよ、青月マジ乙女」 「それな、チビちゃんヤバいわぁーっ!!」 「でもっ、健史君だって誠君からネクタイもらってるじゃん!学ランの場合は第二ボタンが本命だけど、ブレザーの場合はネクタイを好きな人にあげるんだからっ!」 どのようにして生まれた文化なのかは分からないし、それを実際にやってほしいとお願いするオレは乙女チックまっしぐらなのかもしれないけれど。 賭けに勝ったのはこのオレだし、誠君と健史君だって似たようなことをしているって。そうオレが告げると健史君は頬を染め、そして誠君は意地悪く笑った。 「あー、そんな意味があったのか。ケンケンは俺に惚れてんだな、なら納得」 「ちげぇよ、自惚れんな。さっきも言ったろ、卒業したらこっからお前突き落とせなくなるから、この先お前がウザい時には代わりにこのネクタイで首絞めてやるって」

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