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第919話

屋上から突き落とすって、健史君はいつもそう言って誠君と戯れ合っていたけれど。誠君から奪い取ったネクタイが、意味を持つ物だと健史君が最初から知っていたのか……真相は、オレには分からない。 でも。 喧嘩するほど仲がいいって、それを絵に描いたような二人はきっと、これからもこんな調子でお互いの存在を大切にしていくんだと思うから。 「負けた人間は、つべこべ言わずにオレに従ってくれるよね?なんたって、賭けに勝ったのはオレなんだから」 少しだけ意地悪にそう言って二人を見たオレは、兄ちゃんや雪夜さんがするようなニヤリとした笑顔で笑ってみせて。 「チビちゃんの頼みならしょうがねぇか、特に大切にしてるもんでもねぇし……ん、ほらよ」 グッと力いっぱいボタンを引っ張りソレを制服から引きちぎった誠君は、糸がついた状態ままの第二ボタンをオレに手渡してくれる。 「マコ、お前怪力バカかよ。青月も変わり者だな、こんなもん欲しがるなんて……って、何すんだバカっ!」 「ケンケンだって俺と一緒で負けてんだから、チビちゃんにボタンやんねぇとじゃん。ケンケンの弟はこの学校に進学することないだろうし、制服ほつれても母ちゃんに怒られたりしなねぇだろ?」 自分のついでと言わんばかりに、健史君の制服からボタンをもぎ取った誠君。オレの手の中に二人の第二ボタンがやってきて、これで本当にオレたちがこの学校でやることがなくなってしまったのだけれど。 「アイツは、サッカーで推薦もらって名門校いけたらの話だけどな。そのために今からマコに勉強教えてもらってるけど、家庭教師がマコだと受かるもんも受かんねぇよ」 「ケンケンに教えてもらうよりかは、俺のがいいと思うけどなぁ……チビすけちゃんは、ケンケンより頭良いし。サッカースクールでも、結構良いコーチについてもらってるみたいだし」 「健史君の弟君は、サッカーやってるんだね。オレの兄ちゃんの友達が、サッカースクールのコーチしてるよ?」 もう学校から去らなきゃいけないオレたちなのに、健史君の弟君の話でオレたち三人は盛り上がってしまって。 『……世の中って狭いっ!!』 ついつい話し込んだ結果、オレたちが口を揃えて言った言葉はそのひと言だった。 「あ、やっぱり此処にいたっ!」 でも、学校からなかなか立ち去ることができないのは、どうやらオレたち三人だけじゃなかったようで。屋上までオレを探しにやってきた西野君と、その横にいる弘樹もまた、最後の最後の最後まで……オレたちみんな、この学校から離れることができなくて。 「写真撮ろうぜ、此処にいるみんなで」 弘樹のそのひと声で肩を寄せ合ったオレたちは、それぞれの想いを胸に抱き、無事に3年間の高校生活にピリオドを打ったんだ。

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