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第920話
【雪夜side】
月が流れて日が経てば、やってくるのは年一回の誕生日。俺も今年で22歳か、と……そう思う余裕がないのは、俺が今いる場所、そして人、その全てが原因なのかもしれない。
それは、今から丁度10時間前のこと。
まず、18日から日付けが変わり、一番乗りでお祝いのメッセージをくれたのは数日前に無事に高校を卒業した星くんだった。
お互いに卒業を控えている身で何かと忙しい時期を過ごしていた俺たちは、俺が新居に来てからというもの、二人でゆっくり会うことも出来なかったのだが。
星からの連絡を受け、今日が自分の誕生日だったことを思い出した俺は、正直星くんからのお祝いの言葉だけでかなり嬉しかったたのだけれど。
明日はオレが雪夜さんを迎えに行きますね、と。
天然記念物オーラ全開で言われた謎の発言に、アイツは独りでこの家までたどり着けるのかって、自分の誕生日なんぞそっちのけで星の心配をすることが、22歳になった俺の最初の仕事だった。
まぁ、それは相手が星だからどうってことはなく、星の家から新居までの道のりを仔猫に伝えてやり、誕生日のサプライズでも企んでいるんだろうと思いつつ、俺は少しだけ浮かれた気分で眠りに就いたのだが。
……問題は、ここからだった。
まだ慣れない新居での朝、独りでは広過ぎる空間で身支度を済ませ、ステラを抱きながら星を待っていた俺は、突然鳴った家のチャイムに首を傾げる。
迎えにいくと言っていた星が、指定した時間は10時に俺の家にくるというもので。その丁度の時間に星なら既にこの家の鍵を持っているから、チャイムなんて鳴らさなくとも勝手に入ってくればいいのにと。そう思いつつも玄関付近に設置されたモニターを覗いた俺は、そこに映る男に溜め息を吐いた。
「はっぴぃばーすでぇー、やぁーちゃん」
「……なんで、兄貴がここにいんだよ」
「それが知りたきゃ、家から出てくることだな。3分やるから降りて来い、俺がそっちまで行くの面倒だし」
「あー、了解。とりあえず家出るから、エントランスで待ってて」
何が、どうなっているのか。
そんなことを考える暇もなく、俺は必要最低限の荷物を持ち渋々家を出た。
すると、相変わらず俺と同じ顔をした飛鳥が星のスマホを片手に持ち俺に手渡してきて。
「お前の可愛い子猫ちゃんは俺が拉致ったから、お前は今からお兄様と二人きりでデートすんぞ」
「デート云々より星はどこにいんだよ、兄貴なんてどうでもいいから星の居場所教えろや」
「んな可愛い顔しちゃって、子猫ちゃんの安全は確保してあっから安心しろ。まぁ、お前が俺とのデートを拒否すんなら別だけど」
「ざけんじゃねぇーぞ、クソ兄貴」
実の兄貴に大事な恋人を誘拐され、その理由を知るのは誘拐犯の飛鳥本人と星が残したスマホのみ。一体、星はどこで何をしているのか……それだけが頭の中を埋めつくし、こうして俺の最悪な誕生日が幕を開けていった。
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