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第923話
「……なんなんでしょう、この状況」
「それは俺が知りてぇーよ、とりあえず着替えるか……ん、こっちがお前のタキシード」
ランと飛鳥、光と優に言われるがまま、店の個室にやってきた俺と星は二人で溜め息を吐きながら用意されていたタキシードに身を包んでいく。
「オレ、雪夜さんの誕生日をみんなでお祝いできたらなって……そう思って、今日はここにみんなを集めたんですけど。なんか、凄いことになっちゃいましたね」
「お前の気持ちは嬉しいから気にすんな、今日は俺も星くんに渡したい物があったんだけど……そのことを唯一知ってたランに、俺はまんまとはめられたっぽい」
俺が今日、星に渡したい物はランに没収されている。気持ちを形に出来ない俺たちにとって、そう意味を持たない物になってしまうけれど。やはりどうしても、一緒に暮らす前に、星には俺の想いを受け取ってほしくて。
俺の誕生日に、俺から星へマリッジリングを渡そうと思っていると……そうランにだけは話してあったことがきっと、この状況を作り上げたのだろうと俺は思った。
純白のタキシードと、落ち着いたグレーのタキシード。それを用意したのはおそらく飛鳥で、全ての企みに関与したのがラン。立会人としてのプライズメイドが光で、そしてグルームズマンが優。
それぞれの想いと俺の誕生日を利用し、ランと飛鳥の手によって上手いこと計画立てられたウエディングサプライズ。
何もかもが急過ぎて、俺も星も戸惑いを隠せないけれど。正直、嬉しい以外の言葉が見つからなくて。
「オレも、一緒に祝福してもらっていいんでしょうか……今日は、雪夜さんの誕生日なのに」
「アイツらがそうしたいから、お前はそれ着てんだろ。すっげぇー似合ってる……言いたくねぇーけど、さすが兄貴だわ」
正装に着替え終わった星を見て、俺はそう言って微笑んだ。悔しくないと言えば嘘になるが、飛鳥のセンスは完璧で。白に栄える淡いスカイブルーのネクタイが、星の愛らしさを引き立てる。
「雪夜さんだって、とってもとってもカッコイイ……オレ、すっごくドキドキしちゃいます」
普段と何ら変わりのない店内の風景なのに、服装が違うだけで俺と星は緊張感に包まれて。
本当にささやかな、それでいて暖かい想いに彩られたこの時に、俺たちは感謝するよう互いの唇をそっと重ねていくけれど。
「ユキちゃーん、せーい、準備できたぁー?」
「やぁーちゃん、星くんが可愛いからって盛ってんじゃねぇぞぉー」
甘い雰囲気をぶち壊す、なんともうるさいお呼びが掛かり、俺と星は顔を見合わせクスクスと笑い合って。
「行きましょう、雪夜さん」
「そうだな」
俺は星と二人でゆっくりと、それぞれが仕掛けたサプライズがひとつになった世界へと向かった。
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