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第924話

「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、この方を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」 静かに響くランの声、カウンター越しで神父になりきり満面の笑みを浮かべるオカマ。 「えっと……はい、誓います」 突然の誓いの言葉に対応し切れない星くんは、頬を真っ赤に染めてランの問いにこくりと頷く。俺も星と同じようにエセ神父から問われたが、答えはひとつしかないから。 「誓います」 「……では、指輪の交換をっ!」 形式も何もあったもんじゃないオカマ野郎オリジナルスタイルの進行に、星以外の全員が笑いを堪えるのに必死なのは、言うまでもないだろうが。 カクテルグラスに入った二つの指輪は、店内のライトに照らされキラキラと輝きを放つ。 「あのっ、コレって……」 「さっき言っただろ、俺がお前に渡したい物。今誓った想いを指輪に込めて、お互いにそれを与え、受け取んのが誓約の儀式ってやつだから」 そうは言ったものの、こんな形で手渡すことになるとは思ってもみなかったけれど。ここまで来たら結果オーライな展開に、流されてみるのも悪くないと思うから。 シンプルでユニセックスなデザインのリングを一つ手に取った俺は、星の左手に触れる。心臓に繋がる指先、薬指にはめる愛の印。それをつけた星の頬には、キレイな涙が伝っていく。 「とってもキレイよ、星ちゃん。ほら、星ちゃんも雪夜に愛を与えてあげて?」 涙で濡れた指、星が流した小さな雫が艶やかなシルバーリングに足されていき、俺の手を取った星くんは、ゆっくりと確実に指輪をはめてくれて。 「いい場に立ち会えたな、光」 「……そうだね、今だけは二人とも俺より綺麗に見えるよ」 王子と執事からの祝福を受け取り、場の空気を読んで何も言わずに俺と星を見届ける飛鳥からの心遣いをありがたく感じた俺からは、自然と笑みが洩れていた。 「さてさて、最後の最後は誓いのキッスよ!二人とも、私たちのことは気にせずにどうぞお好きなだけイチャついてちょうだいっ!」 「え……あ、えっ!?」 「せーい、なんで今更動揺してるの?結婚式っていったら、人前でチューするのが当たり前でしょ?」 「この俺様が黙ってみててやったてのに、ランちゃんが余計な言い方すっから台無しじゃねぇか」 「何よっ、せっかくのウエディングサプライズなんだから誓いのキッスくらいしなきゃダメじゃないっ!?」 「だそうだぞ、雪夜」 堪えていた笑いが一気に溢れ出した会場、人数は少数なのにガヤガヤと騒がしい店内でひとり慌てる星くんを抱き寄せた俺は、星だけに聴こえるように耳元で囁いて。 「星、愛してる」 一瞬だけ触れ合った、俺と星の唇。 それを目撃したヤツはひとりもいないけれど、公にはならないちっぽけなこの場所で……しっかりと誓いを立てた俺たちの手には、想いが詰まったリングが輝いていた。

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