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第927話
【星side】
雪夜さんの誕生日のサプライズは、オレが思っていた以上のことが次々に起きて驚くことが多かったけれど。でも、とっても素敵な1日になったことがオレは何より嬉しくて。
雪夜さんとお揃いのシルバーリングをメダイユと同じチェーンに通したオレは、オレの胸元で揺れる二つの宝物を見て頬を緩めていく。
本当は、左手薬指につけていたい物なんだけれど。オレも雪夜さんも指輪をはめて仕事が出来るような職種を選んではいないから、だから大切な指輪とメダイユはネックレスとしてオレの身についているんだ。
高校も卒業して、新生活を迎えるまであと少しとなった3月の終わり。今日は雪夜さんと兄ちゃんの大学の卒業式があるみたいだけれど、家の外は生憎の天気で。卒業式へ出席する兄ちゃんは、朝からバタバタと支度を済ませて騒がしく家を出て行った。
「さすが雪夜さんだなぁ……雨男の本領発揮って感じ、せっかくの卒業式なのに風も雨も酷いね」
兄ちゃんが家を出た後、オレはリビングで兄ちゃん同様に身支度を済ませていく母さんにそう言って。
「あら、この天気の悪さは雪夜君の仕業なのね。しょうがない、それなら許してあげるわ」
いつもは緩く縛られた長い髪をアップに纏めて、呟いた母さんは楽しそうに笑っている。もしも、雨を降らす雷様が雪夜さんだったなら、きっと母さんみたいに雨でもいいやって思ってくれる人も少なくないんじゃないかって……オレはそんなどうでもいいことを考えつつ、おめかしした母さんの姿をぼーっと眺めていた。
「私はそろそろ家出ちゃうけど、星は部屋の片付けしておきなさい。雪夜君と一緒の家で暮らす日、もう決まっているんでしょう?」
「ああ、うん。4月からは向こうで暮らすつもりでいるから、オレものんびりしてられないんだった」
この家を出て、雪夜さんと暮らすといっても。この家のオレの部屋はそのままにしておいてくれるらしいし、新居の家具や家電はすべて雪夜さんが揃えてくれたから。オレはこれといって特にまとめる荷物もなく、新居には細々した雑貨を持っていくくらいなんだけれど。
「雪夜君、本当に星のことが好きなのね。言葉で表すのは簡単だけれど、行動で示すのは難しいことよ」
「うん、分かってる。あんまり苦労や努力を見せる人じゃないけど、それでも……雪夜さんがオレと過ごせるように、色々と動いてくれたのはちゃんと理解してるから」
「星の代わりに、私が雪夜君の姿を見てきてあげるわ。光も目立つ子だけれど、雪夜君も目立つでしょうから。雪夜君のことは、遠目からそっと観察しておいてあげるわね」
本当に保護者として卒業式に出席するつもりがあるのかと聞きたくなるくらいに、母さんはハイテンションで。そんな母さんについていくことができないオレは、さも用事があるフリをして母さんの背中を見送ったんだ。
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