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第929話

オレと雪夜さんが一生喧嘩しないとは言えないし、すれ違うことだってあるとは思うけれど。オレのことを一番に考えてくれる雪夜さんとの関係性は、悪くなるとは思えない。 でも、弘樹と西野君の場合は、どちらかというと苦労してるのは西野君の方だから。この先、バカな弘樹が西野君に愛想を尽かされてしまわぬように、オレはただただそんなことを願うばかりで。 「セイと会う時間も減るけど、悠希と会う時間も減っちまうからなぁ……俺も悠希も新しい環境になったら、どんな付き合い方してくかは分かんねぇし」 「弘樹のバカさに付き合えるのは、きっと西野君だけだと思う。西野君って毒舌だけど優しいよね、弘樹にはかなり甘い感じする」 「それをいうなら、白石さんが一番変貌すんだろ。セイ相手だと、あの人の甘さがただ漏れしてる気がする……まぁ、だから白石さんが俺の憧れの人なんだけど」 「雪夜さんみたいになるのは、相当頑張らないと無理だよ。それに西野君は弘樹が好きなんだからさ、西野君が好きな弘樹になればいいんだと思う」 好きな人に、いつまでも好きでいてもらいたい。女々しいと言われればそれまでかもしれないけれど、オレも弘樹も地味に一途だからそう思ってしまうんだ。 「……あ、セイ」 「ん、ナニ?」 ベッドに腰掛けて隣同士、お互い適当な場所に視線を向けつつ話していたオレと弘樹。室内にはオレたちの声と雨の音、そしてもう一つ小さなバイブレーションが響いて。ベッドの上で鳴ったオレのスマホに手を伸ばした弘樹は、オレにスマホを手渡してくれる。 「……兄ちゃんからだ、卒業式終わって今から飲み会だって。うわっ、カッコイイ……やっぱり、弘樹が雪夜さんになるなんてどう考えても不可能だよ」 「セイちゃん、それ酷い……って、確かに無理だわ。ヤバい、白石さんのスーツ姿初めて見たけどこれはヤバい」 弘樹と二人で眺めているのは、兄ちゃんが送ってきてくれた一枚の写真。その写真が映るスマホにオレも弘樹も釘付けになり、そして二人で溜め息を吐いた。 カメラマンの兄ちゃんの腕がいいのもあるけれど、正装の雪夜さんはやっぱりいつ見てもカッコよくて。カメラに向かい珍しく笑顔をみせる雪夜さんの姿は、オレと弘樹の心をトキメかせていくから。 「これさ、絶対セイに向けて微笑んでるよな。あの人って、この笑顔はセイにしかしねぇもん。クッソイケメン、俺が惚れそう」 「絶対ダメ、誰にもあげない。弘樹にはもう見せないっ!はい、しゅーりょーですっ!!」 「もう一回見せてッ、頼むからあと一回、一回でいいから俺にもイケメン拝ませろッ!!」 変わらなくて、くだらない会話。 それをいつまでも繰り返して笑い合うオレと弘樹は、互いにかけがえのない親友なんだと思えた。

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