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第936話

朝食を食べ終わった後、古いアルバムを引っ張り出してきた星の父親の周りに皆が集まり、写真に残る思い出をそれぞれが語り出す。 「こっちが光の5歳のときで、こっちが星の5歳のときかしら」 どちらも、父親の胡座の上に収まりよく座って、笑顔を見せる子供の写真だが。ダブルピースで写る光と、膝を抱えて写る星の姿は、二人の性格の違いがよく現れていると思った。 「こうして振り返ると、月日が経つのは早いものね。この頃の二人はまだ、私と結婚してくれるって言っていたのに」 「そうだったっけ?俺は母さんにそう言ってた記憶あるけど、せいは俺と結婚するって言ってた覚えがあるよ?」 「星は確か、パパと結婚するんだって言ってた記憶があるんだが……」 アルバムの中の幼い星の姿を瞳に映し、この頃の星くんが誰に結婚を申し込んでいたのかを真剣に話す家族だけれども。星を娶るのはこの俺なワケで、俺は込上がってくる笑いを堪えるのに必死だ。 小さい時の微笑ましい記憶が、家族の中にあるのはとてもいいことだとは思うが。家族全員に結婚を申し込んでいたらしい本人にとっては、蒸し返してほしくない過去なんだろうと思う。 その証拠に、星くんは俺の隣で頬を真っ赤に染めて一言も喋ることなく俯いている。それなのに、恥ずかしさが限界を越えそうな星の姿なんぞ関係なく、両親も光も誰が一番に過去の星から愛されていたのか討論し始めてしまって。 「せいは俺のことが一番好きだったもん、今でもせいはお兄ちゃん大好きだし」 「あら、私だって星から大事にされてるわよ。この頃の星はママっ子だったんだから」 「……パパぁ、ちゅーって、幼い頃の星は可愛い口付けをしてくれたぞ」 家族みんなに愛されて、そして家族みんなのことが大好きな幼き日の星くんの言動。これが家族以外の人間にしていたことなら、コイツはとんだ小悪魔だと思いつつ、昔から可愛いことしてんなって、俺がそう思った時だった。 「もうっ!!オレは家族みんなのことが好き、でも一番好きなのは雪夜さんだから、オレは家族の誰とも結婚しませんっ!!」 湯が沸いたような星は、ぶわっと立ち上がると早口でそう言って。アルバムを見つめる輪の中から抜け、ひとりリビングを出て行ってしまった。 「……さすがにやり過ぎッスね、あんまり羞恥心煽り過ぎるとアイツ拗ねちゃうんで。自分が家族に愛されてること、アイツはちゃんと分かってるから大丈夫ですよ」 家族だけが知っている過去の星くんはよく知らないけれど、俺は今の星のことならよく知っているから。光も含め、星の態度に驚いている様子の両親にそうフォローを入れた俺は、星くんの後を追うためその場に立ち上がる。 「ユキには敵わないってことだね、ちょっと遊び過ぎちゃった」 「雪夜君、すまないが星を呼び戻してきてくれ」 「そうね、そろそろあの子が家を出る予定の時間だわ。雪夜君、よろしく頼むわね」

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