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第937話

ひとつずつ、小さくても確かな信頼を感じられる母親からの言葉に感謝して。おそらく自室で嬉し泣きしているであろう星の元へ行くために、俺は階段を上っていく。 家族から愛されていることを知り、恥ずかしさと嬉しさと、そして少しの寂しさを抱えて……両親の前で涙を堪えた星くんは、男として大きく成長していると思うから。 俺がゆっくりと部屋の扉を開けると、そこにはやはり涙する星の姿があった。 哀愁漂う背中に、星の愛らしさが混じる。 昨日も泣いて、今日の朝も泣いて、ここでも泣く星くんはかなりの泣き虫だと思うけれど。星の涙はいつ見てもキレイなままで、こうして真珠のような涙を成長した今でも流すことの出来るコイツは、多くの人からの愛情を純粋に感じられるやつなんだと思った。 出逢った時から、それは変わることのない星の魅力で。俺が初めてこの部屋で星に触れた時、俺が初めて人に触れてみたいと思えたあの感情は、コイツが持つそんな純粋さに引き寄せられていたものなんだろうと……俺がそう思った時、窓の外の桜が風に吹かれてひらひらと舞っていくのが見えて。 「……オレは、オレはみんなが好きです」 俺と同じ景色を見つめていた星は、小さな声でそう呟いた。家族、友達、もちろん俺も含めて、星はみんなが好きだと言って。綺麗事では語れない出来事も星自身たくさん経験してきたはずなのに、それでもコイツは人を憎むことなく人を愛していくんだろうと。 俺より小さなその背中に、芯の強さを感じた俺は、星に触れることなく部屋の壁に凭れていく。 触れたいと思った時、あの時には気付かなかった星くんの心の強さ。よく泣いて、よく笑う、そんな星を俺は今、ただ傍で見守ってやることがベストのように思えてならなくて。 抱き締めて、頭を撫でてやって。 普段の俺なら必ずそうするであろうこの状況で、星が俺と共にこの家を出るための心の準備をしている間、俺は成長した星の姿を黙って見ているだけだった。 本音を言うと、あまりにも星くんがキレイ過ぎて近寄れなかったんだけれど。出来ればこのまま、この部屋で桜を眺めている星を永久保存しておきたいくらいに、出会いと別れの季節を感じさせる星の姿は輝いていて。 星という名前の由来が、そして星くん本人が。 星に関わる人を幸せへと導く、一筋の光のように思えたから。 苦しみも、辛さも。 悩みも、不安も、何もかも。 月日が経ち、振り返ってみれば、それは自分という人間を形成していくひとつの鍵になるのだと。今こうして、俺と星がここにいるのも、そのひとつひとつを合わせて出来た形なんだろうと思った。 だからこそ、二人で。 俺と星が見つけた、愛の形の答え合わせをこれからしようと思うんだ。

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