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第939話
「えっと、えっと……お邪魔します」
「ここはもうお前ん家だから、ただいまが正解な。まぁ、とりあえず中入れよ」
新居にやってきた星くんは、おっかなびっくり家の中へと足を進めていく。
星の荷物を実家からこの家へと移動させたのは俺で、星がここに訪れたのは車の免許を取得した時以来だから……俺とは違って星くんが緊張しているのは、無理もないと思うけれど。
「すごいっ、ちゃんとお家になってる!」
ぐるりと部屋の中を見渡し、星は興奮気味にそう言った。そんな星くんの姿に安堵して、俺は星の頭をくしゃりと撫でる。
「俺が既に暮らしてんのに、お前が来た時と変わらない何もない部屋だったらおかしいだろ」
「まぁ、そうかもしれないですけど……とっても素敵なお家になりましたね、やっぱりインテリアのコーディネートを雪夜さんに任せて正確でした」
前の家にはなかったダイニングテーブルや、俺が気に入って購入したL字型のソファーに早くも満足感を表してくれる星くん。
基本的には二人で暮らすことを想定して、色々と生活用品は揃えたけれど。テーブルとソファーは光と優が入り浸ることを考え、俺は四人仕様になっているものを購入した。
前の家でもソファーで眠ってしまうことが多い星くんのために、なるべく寛げる物を選んで良かったと……俺はそう思いつつ、やっと二人きりになることが出来た恋人を抱き締めて。
「好き、星くん」
このままの流れでヤっちまいそうな衝動を抑えるかどうか迷い、焦らなくても星はもう俺のモノだと小さな独占欲を感じた俺に、星くんはクスっと笑うと嬉しそうに頬を染めていく。
「オレも、雪夜さんが大好きです。こんなに広い部屋で、今日まで独りで過ごしてたから寂しかったって……雪夜さんのお顔に、そう書いてあるのがとっても可愛い」
「だってここは俺とお前の家だから、星がいなかったら話になんねぇーんだもんよ」
「でも、もうオレはここにいるので安心してください。オレも雪夜さんと二人で生活できるのはとっても嬉しいし、いつも以上に安心してるから」
だから、ココアが飲みたいですって。
相変わらずな理由をつけて甘えてきてくれる星の額にキスを落とし、俺は大人しくキッチンに向かった。
星が好きなココアと俺が飲むためのコーヒーを淹れている最中、星くんはソファーに転がっていたステラを抱えて俺の姿を眺めていて。
念願の対面キッチンにご満悦な様子の星からは、幸せいっぱいのふわふわしたオーラが溢れ出している。
「ステラ、久しぶり……雪夜さんのこと、温めてくれてありがとう。今日からは、オレもずっと一緒だからよろしくね」
抱えた黒猫のぬいぐるみと向き直り、星はそう言うとステラの鼻にキスをしていた。その様子をしっかりと視界に入れていた俺からは、当然のように笑みが洩れていたのだった。
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