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第940話
【星side】
実家を出て、やって来たお家。
今日から、雪夜さんと二人だけの生活が始まるんだけれど。
「このソファー、ふかふかで本当に気持ちいい……オレ、このまま寝ちゃいそうです」
自分の荷物整理はまだ何も終わっていないのに、ソファーで寛ぎココアを飲み干したオレは、ステラを抱いて雪夜さんの膝の上に転がっている。
「星くん、よくソファーで寝るからな。もう最初から、お前が寝やすそうなやつ選んどいた」
「さすが雪夜さんですね、オレのこと本当によく分かってますもん」
広いソファーは足を伸ばして転がっても余裕があるし、膝枕してくれている雪夜さんもゆったりと腰掛けている。
「褒めてくれてありがとさん。けど、寝るならベッドで寝ろよ……っつーか、お前まだ荷物整理終わってねぇーだろ」
「……んー、だってこうしてると、安心するから眠たくなっちゃうんです」
ふかふかのソファーに寝転び、恋人には膝枕をしてもらって。おまけに、オレは優しい手つきの雪夜さんに頭を撫でられているんだから。こんなの、心地よすぎて眠たくなるのは避けられないと思うんだ。
「星、寝るならベッドまで連れっててやるけど、どーする?」
「ん、抱っこ……して」
安心したら眠くなって、眠くなったら甘えてしまう。そんなオレのことを手に取るように理解している雪夜さんは、オレの返答にクスッと笑うとオレをお姫様抱っこしてくれるけれど。
「……お前、ホントにこのまま寝れるとでも思ってんのか?」
「んっ…ぁ、ちょ」
抱き上げられ、オレが雪夜さんの首に腕を回して。ゆっくり目を閉じたのも束の間、雪夜さんの唇がオレの耳を擽った。
反射的にキュッと力が入る身体は、オレのぼんやりとしていた意識を正常に戻していく。
でも。
「荷物整理放置してベッドまで行くってことは、俺にナニされてもイイってコトだろ?」
誰もそんなことは言っていないのに、雪夜さんの解釈は違うらしい。昨日の夜はオレの実家できちんとステイしてくれた雪夜さんだけれど、二人だけの空間にいる今、この人が大人しくするなんてことは有り得ないわけで。
「……起きますから、離してください」
オレに唯一逃げ場があるとするなら、それはやらなきゃならない荷物整理をすることだけだ。だからオレは渋々、雪夜さんの腕の中から抜け出すことを選んだのに。
ニヤリと上がる雪夜さんの口角は、オレの選択を迷わせる。けれど、この場合、オレと雪夜さんとでは寝るの意味合いが違うことにオレは気がついたから。
「ちゃんと荷物整理するので、下ろしてください……というより、雪夜さん最初からオレを寝かせる気なかったでしょ?」
「ん、正解。この流れで抱くのもアリだけどな、真面目な星くんは荷物の片付け優先するだろうと思って」
そう言いながら、ゆっくり下ろしてくれた雪夜さんはオレのおでこにキスをする。
「ちゃんとやること終わったら、ご褒美やるよ。今日の夕飯、カルボナーラにしてやるから一緒に整理しよう」
オレの扱いを熟知している雪夜さんの言葉に、オレは頬を緩めながらも大きく頷いた。
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