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第943話

お風呂で部屋での寛ぎ方の話し合いをし、お互いに二人でいるとき以外はきちんと服を着ることを約束して。 バスルームから出たオレは、雪夜さんに甘え切っているんだけれど。結局、オレは雪夜さんの部屋着のスウェットを上だけ貸して貰い、雪夜さんは逆に下だけ穿いている状態で。 この先、お互いに約束を守れるのかちょっぴり心配になりながらも、オレは雪夜さんに髪を乾かしてもらっているんだ。 ソファーを背もたれにし、ラグの上で胡座の姿勢を取っているオレと、ソファーに座ってオレの髪をタオルドライしてくれる雪夜さん。 二人でいるときの日常を感じて頬が緩んでしまうオレは、もうすっかりこのお家に溶け込んでいるけれど。 「……星くん、前髪のセット自分でできるようになったか?」 雪夜さんにそう言われ、オレは小さく頷いた。ホールでの接客がオレの仕事のメインになることを考えると、長い前髪を下ろしたままってわけにはいかない。 お手伝いのあいだはヘアピンで留めていたけれど、これからはフルタイムで働くことを思うと、身なりはきちんとしておくのがマナーだから。 ランさんと話し合った結果、長さは変えずにセンターパートで前髪を分け、変化を持たせることになったのはいいのだけれど。 「兄ちゃんに教えてもらって、何回も練習したので大丈夫なんですけど……まだ自分で見慣れないから、変じゃないか不安で」 ヘアセットの仕方を兄ちゃんに伝授してもらい、何度も練習した甲斐があって朝の忙しい時間でもスムーズにできるようにはなった……なった、けれども。 「変なワケねぇーだろ、すげぇー可愛くなるから心配なだけだ」 タオルからドライヤーに持ち替えた雪夜さんは、そう言ってオレの髪に触れる。 「でも、まだやっぱり自信がないというか、なんと言うか」 「お前一年の時、前髪上げて女子に囲まれたの覚えてねぇーの?星くんが思ってる以上に、お前は魅力的なんだよ」 自信がないオレを励ましてくれた雪夜さんは、その後すぐにドライヤーでオレの髪を乾かし始めてしまって。 温かい風と雪夜さんの指先が気持ち良くて、オレは目を瞑ったままヘアブローを雪夜さんに任せていた。 そうして。 「……ん、できた」 そのひと言で目を開けたオレは、いつもよりも視界が開けていることに気がついて。ブローだけで雪夜さんが前髪を落ち着かせてくれたんだって思ったオレは、振り返り雪夜さんを見つめる。 「ありがとうございます、雪夜さん」 「クッソ可愛い顔しやがって、しかもその格好……星くん、パンツ見えてるし」 「えっ!?」 「生脚出したまんま胡座でいたら、スウェットデカくても見えるだろ。お前は本当に、変わんねぇーヤツだな」 お礼を言っただけなのに、ニヤリと上がる雪夜さんの口角はこの先の未来を予知するようで。ふわりとオレのおでこに落ちてきたキスに、オレは頬を染めてしまった。 「……ったく、あんま俺を妬かせんなよ」 そう呟いた雪夜さんは、オレの頭をくしゃりと撫でるとドライヤーを片付けに行ってしまったけれど。オレは恥ずかしくて、ソファーに転がっているステラを抱え、顔埋めることしかできなかった。

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