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第944話

「雪夜さん、ベッドすっごく気持ちいいです!」 「星くん、今日1日中気持ちいいことばっかじゃねぇーか」 「だって、本当に気持ちいいんですもん。雪夜さんがオレとの生活のために揃えてくれた空間ですし、心地良くて幸せなんです」 リビングの電気を消して寝室へと移動し、ベッドに横になったオレは、煙草を咥えた雪夜さんの腰に抱き着いている。 シンプルかつモダンな雰囲気の新居は、オレと雪夜さんの好みが上手く合わさっているように感じるんだ。 「お前が幸せなら、そんでいいけど……コレ吸い終わったら隣いくから、もうちょい待ってて」 ベッドサイドのチェストに置かれた灰皿と、愛用のジッポ、それと煙草の箱。雪夜さんのお家だなって感じる要素の一つは、オレの心をときめかせていく。 今日の朝はまだ、実家で朝食を摂っていたのに。今は雪夜さんと二人で新居を満喫して、幸せいっぱいでいるオレは単純なのかもしれないけれど。 「煙草吸ってる雪夜さんを眺めるのも好きなので、大丈夫です。甘い香りもするし、心が落ち着くから」 雪夜さんの匂いに包まれているみたいに、安心するひと時を過ごして。 「……お待たせ、星くん」 最後に吸い込んだ煙をゆったりと吐き出し、そう言った雪夜さんは煙草の火を消していく。その姿も大好きなオレは、頬を緩めてしまうんだ。額に落ちてくる髪をかきあげて、雪夜さんが優しく笑ってくれるのをオレは知っているから。 「雪夜さん、大好きです」 予想通りの雪夜さんの仕草に、思わず胸がきゅんとする。いつまで経っても変わることのない想いは、溢れていく一方で。 雪夜さんがリモコンで寝室の灯りを消すと、ヘッドボードの小さな二つのランプだけが淡く灯されていく。温かいオレンジ色の照明は、オレを優しく眠りへと誘ってくれそうだと思った。 けれど。 「星」 腰に抱き着いているオレの頭を撫でて、そっと手を取る雪夜さん。就寝前の安らぎの時間を、この人は一瞬で塗り替えてしまうから。 「…っ、ん」 取られた手に雪夜さんの指先が絡まり、オレの身体はベッドに沈む。そのままゆっくりと重なった唇は、たくさんの想いを言葉にする前に吐息だけを洩らしてしまう。 「はぁ…っ、ぁ」 ふわりと触れるだけのキスを繰り返しながら、甘く揺れる瞳で見つめられたら息なんてできない。昼間のように逃げる口実はもう用意されていない今、口角が上がる雪夜さんの微笑みは、その雰囲気をより一層甘くさせるんだ。 「一番気持ちイイコト、俺とする?」 この期に及んで、与えられた選択肢が憎い。 完全に流れに身を任せている自分が恥ずかしいのに、雪夜さんを求めずにはいられなくて。 「ん……する、雪夜さんと気持ちいいコト、したい……けど」 「けど、どーした?」 ベッドに縫い付けられた両手は絡まったまま、鼻先が触れ合う距離で素直な気持ちを紡ぐオレは、雪夜さんへの感謝を込めて、ある提案を持ち掛けた。 「あの、えっと……今日は、オレも雪夜さんを気持ち良くしたいです。だから、オレにさせてくれませんか?」

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