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第945話
とは、言ってみたものの。
実際にこうして、オレの提案を快く呑んでくれた雪夜さんの上に跨ってみると、オレは緊張してしまう。
ベッドに横たわり、大人しくしている雪夜さん。けれど、その表情はきっとニヤけているに違いなくて。オレは真っ直ぐ雪夜さんの顔を見ることができずに、雪夜さんに覆いかぶさったまま、枕に頭を突っ込んでいる。
「星、可愛い」
「あっ…ちょっと、ダメですって」
オレからするって、決めたのに。
待てができない恋人は、オレの耳に口付けて笑うから。オレは雪夜さんの頭の横に埋もれている顔を上げ、しっかりと腕を伸ばして自分の身体を支えていく。
すると。
案の定、オレを見上げてニヤけている雪夜さんと視線がぶつかった。
「そんな顔して襲われてもな、逆に今すぐ犯したくなんだろ……ッ、てぇ」
オレがどんな顔をしているかは、分からないけれど。でも、雪夜さんのその言葉で頭が冷えたオレは、雪夜さんの鎖骨にゆっくりと歯を立てた。
「ダメだって言ってんでしょ、今日はオレがするんです。色々と伝えたいこといっぱいあるんですけど、雪夜さんにも気持ち良くなってほしいから」
オレがこの家で感じた気持ち良さとは異なるけれど、ありがとうと大好きの心は伝えたい。だからオレは、恥を忍んで雪夜さんの上にいるのに。
「ッ、ん…こら、もうっ」
オレの太腿を撫でる雪夜さんの指先は、ちっともオレの言うことを聞いてくれない。こんなことなら、下もちゃんと着込んでおくんだったと思っても後の祭りだった。
「星くん、俺がお前を気持ち良くしちゃいけねぇーとは言われてないんだけど?」
「言ってない、けどっ…違う、の」
ゆっくりと焦らすような触れられ方に、オレの身体は反応してしまう。雪夜さんの上で早くも腰が揺れてしまいそうなオレは、唇を噛んで出てきそうな声を押し殺す。
誘惑に負けそうな身体と、この状況を悔しく思う心。まだスタートラインにすら立たせてもらえていない気がして、オレの意識は完全に後者の手によって塗り潰された。
油断も隙もあったもんじゃない雪夜さんを、オレの思い通りにするのは難しいけれど。こんなオレでも、この狼さんを大人しくさせる唯一の方法は雪夜さんを呼び捨てることだから。
「雪夜は動かないで……大人しく、して」
噛んだ唇を開き、名を呼んで。
真っ直ぐに雪夜さんを睨みつけたオレは、琥珀色の瞳から目を逸らさずにいた。
そうして。
「……分かった、お前の好きにしろよ」
そう呟き、手を止め、先に視線を逸らしたのは雪夜さんだったんだ。
「いい子です、雪夜さん」
噛んだ鎖骨を舐め上げて、オレは雪夜さんに微笑み掛ける。けれど、普段のオレは雪夜さんに気持ち良くされてばかりだから、オレは雪夜さんが弱い箇所をまだよく知らなくて。
「…っ、ん」
結局オレが選んだのは、オレが雪夜さんからされていることをそのままお返しすることだった。
耳から首筋へ、唇を滑らせていく。
いつも雪夜さんがしてくれるように、ゆっくり、少しずつ。
でも、時々……オレは、我慢ができなくて。
「いてぇー、星くん」
明日まで残る痕にならない程度に、加減しつつも首筋に噛み付くオレは、雪夜さんの反応を楽しむように北叟笑んだ。
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