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第950話

「おはようございます、雪夜さん」 「はよ、星くん」 新生活がスタートして、早いもので1週間が経った朝。入社式も終えて、正式なコーチとなった俺の朝は、可愛らしい星くんの挨拶から始まる。 「今日は上の人とのミーティングあるから帰り遅くなるけど、お前は仕事終わってもランのとこにいろよ」 「分かりました、じゃあ夜の営業もお手伝いさせてもらってきますね。あ、洗濯物どうします?浴室乾燥機、使った方がいいですかね?」 「あー、たぶんその方がいいな。日付け変わる前には迎えに行けると思うけど、新規の生徒の話になるからミーティング時間かかるかもしんねぇーし。洗濯物は俺がやっとくから、星くんは出勤時間までゆっくりしとけ」 ランのところで本格的に働き始めた星くんの朝は早く、それと対照的に昼前から仕事に入る俺は、毎朝星くんに起こしてもらって朝食を摂った後に部屋の掃除をする。二人で話し合って決めたわけではないものの、上手い具合に釣り合いが取れた家事分担に、お互い不満は一切なくて。 「じゃあ、お言葉に甘えちゃいます。雪夜さん、今度のお休みの日なんですけど、そこの公園の桜祭りに一緒に行きませんか?」 一通りの支度を終えた星くんは、ソファーで寛ぎながらコーヒーを飲んでいる俺の横にちょこんと座るとそう尋ねてきた。 マンション近くの公園で、毎年この時期に開催される桜祭り。そのことは知っていたものの、まだ星と一緒に行ったことがなかったことを思い出した俺は、断わる理由もないため当然のようにOKを出す。 ランの計らいで、俺のシフトに合わせた休暇を取れる星くんは、今までと変わらず、俺と一緒に休日を過ごせることが余程嬉しいようで。ぱっと明るい笑顔になった星くんの表情に、俺の心は癒されていく。 「良かったぁ、お互いに仕事してるとゆっくりできる時間って思いの外少ないんだなぁって、最近思っていたのでとっても嬉しいです」 「お前の身体のこと考えると、頻繁にヤれねぇーしな。祭りもいいけど、今度の休日はご無沙汰な息子っちの相手してやって」 「あー、はい……って、朝からエッチなこと言わないでください。オレも雪夜さんとひとつになりたいけど、仕事出来なくなったら困っちゃうんですもん」 お互いに、やるべき事はちゃんとやる。 一緒に暮らしていても、俺と星のその決まりごとは変わっていないから。今ある幸せに、俺たちからは自然と笑みが零れていく毎日で。 「んなもん分かってる、だから大人しくしてんだろ。その代わり、休日はたっぷり可愛がるからな、覚悟しとけよ」 隣にいる星くんを抱き寄せ、そう呟いた俺に。 期待してますねと囁いた星は、柔らかな笑顔で微笑んでくれた。

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