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第5話
「それってこの女の子?」
流星はアルバムを持ち、写真を指さす。
祖父は写真を覗き込み「その子、女の子やなかよ、凪って名前の修の同級生の男」と答えた。
「えっ?女の子やなかと?」
流星も葉月も驚く。
「うん、違うばい?まあ、確かに凪は女の子みたいな可愛い顔をしとったもんなあ、小さい頃は葉月に似とる」
祖父は葉月を見て微笑む。
流星も雰囲気が葉月に似てるなあって思っていたので「じゃあ、葉月もこげん綺麗か子になると?」と真顔で祖父に聞いた。
「りゅ、流ちゃん!!なんばいいよっとよ!この人の方が数倍綺麗とよ?」
葉月は顔を赤くして否定する。
「葉月こそ、なんばいいよっと?葉月はそこら辺の女の子より可愛いやん、美人になるっちゃない?」
流星は当たり前だろ?みたいな顔で言ってくる。葉月はもう恥ずかしくて顔が赤くなる。
「流星……お前も修に似て……将来モテそうやなあ」
祖父は真顔で葉月を綺麗だと言う姿に我が弟、修を重ねた。
「え?俺、修ちゃんに似てると?やったあ!!」
流星は似てると言われて喜ぶ。
「なーんか、じいちゃんとしては複雑ばい、弟に似てると言われて喜ぶ孫とかさ」
祖父は笑って言う。
「指輪はもとあった場所に戻せよ、ほら、荷物まとめるとぞ」
祖父に急かされ、指輪の箱は戻した。
でも、流星は修と一緒に写る凪が気になって写真を1枚こっそりとポケットに隠した。
◆◆◆
それから毎日、学校の帰りは葉月と修の見舞いへと行くようになる。
直ぐに退院出来ると言ってたのに1週間経っても修はまだ入院中だ。
流星と葉月は学校での出来事や、祭の準備の話等を報告している。
ただ、やはり寂しい。毎日行っていた家に修が居ない。
晩ご飯を作ってくれたりお風呂に入ったり、勉強を見てくれたり、ほんの1週間、修が居ないだけでこんなに寂しい。
「あ、そうや、お菓子があるったい、看護士さんとかがくれるとさ」
修はそう言いながら側にある棚からお菓子を出す。
「修ちゃん病院でもモテモテなんやね」
「そうばい」
修はあははと笑い流星と葉月にお菓子を配る。
モテモテでふと指輪を思い出す流星。
「修ちゃん……好きな人とかおらんかったん?」
流星は改まって聞いてみた。初めてかも知れない恋バナとか言うのは。
「突然やね?どげんした?」
「……修ちゃんモテモテっては知っとるけどさ」
指輪の事はきっと聞いてはいけない。分かっているけれど、どうしても気になる。1度芽生えた好奇心というのは取り去るのが困難だ。
「……おったよ」
修は静かに答えた。
「今も好きかな?」
続けて言う修は見た事ないような幸せそうな顔。過去形でおったよ。って言ったのに幸せそうな顔なのは本当にその人が好きな証拠。
きっと、楽しい思い出しかないのだろう。
「その人……どこにおらすと?」
「さあ?よかとこやない?」
「よかとこって?」
「俺がその人がよかとこ居って欲しかなあって思うけん」
そう言った修の顔は今度は切なそうな顔だった。
駆け落ち……そう決心する程好きな人なのに一緒に居れなくて、よかとこ居て欲しいとか願ってしまうくらい好きで……恨む事もしないで生きてきたのかと思うと流星も切ない。
「なんか暗かねえ、ほい、小遣いやるけんジュースこうてこい!葉月の分もばい」
お金を渡され流星は立ち上がりフラフラと病室のドアへ。
「流ちゃん僕も行く」
葉月も後を追う。
◆◆◆
自動販売機で2人で好きなジュースを買う。
側にある長椅子に座り缶ジュースのリングプルをカシッと音を出して開ける。
「流ちゃん、いきなりどがんしたと?好きな人の事とか聞いて」
葉月もジュースを飲みながら聞く。
「ずっとさ、指輪が気になると」
その言葉に葉月も「それは僕も……」と言う。
「修ちゃんが独身なのはその人が好きだからだよね?」
流星の言葉に葉月も頷く。
子供にもわかる。
指輪を大事にとってあった時点でまだその人に心があるのだ。それくらい好きなのだ。
「あ、流ちゃんのお父さんだ」
葉月が顔を上げた時に視線の向こうに流星の父親を見つけた。良くみると祖父も一緒だ。
修がいつ退院するのか聞いてみようと葉月と2人で近付く。すると話し声が聞こえてきた。
「修が退院したかってうるさい」
「できんとやろ?」
「医者はこのまま治療した方がもう少し長く生きれるって言いよるとに修は言うことばきかん!アイツは昔っからそうやった……どうせ死ぬなら家が良かって」
そこまで聞こえて流星と葉月は固まった。硬直したものだから手の力が抜けたのかも知れない。するりと流星の手をすり抜けた缶は床に落ちた。
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