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第7話
「俺……修ちゃんに何もしてあげれん」
「馬鹿だなあ、もうたくさん貰ったよ?」
「なに?」
「こうやって泣いてくれるし、毎日楽しかったし、もう充分ばい」
修の声は優しい。
「でも、足りん!」
流星は大声で叫ぶ。修はいつもみたいにわははと笑って「そうやねえ、流星がもっと男らしゅうなって葉月とか母ちゃんとか父ちゃんとか守れる男になってくれたら嬉しいかなあ」と言った。
「そげんこというなら長生きばしろさ!!そいで、自分の目で確かめたら良か!」
もちろん、それが出来ない事は知っている。知っているけれど、言葉になって口から出てしまうのだ。
「修さん、何か欲しいもんとかない?会いたい人とか」
泣いていた葉月がやっと言葉を吐く。
「なんもなかな、会いたい人はちゃんと会いに来てくれるけん」
「修さん……ごめんなさい。最初に謝るね、修さんの持ってた指輪……見たと」
葉月は頑張って勇気を出して言葉にした。
「ああ、兄貴に聞いた」
なんと、それも知っていた。
「その人ってまだ生きてると?」
「聞いてどーすると?」
「だって、修さんが独身やったとはその人がまだ好きだからでしょ?」
「直球でくるね、子供は凄かねえ、大人がいいきらん事ば直球でくる」
修は葉月の頭を撫でた。
「好きで好きでたまらん人やったばい。今でも色褪せないくらいに思い出がある、人生の中で初めて好きになった人で最後まで好きやった人ばい」
修の言葉で2人は起き上がり「じゃあ、会いたいやろ?なんとか探すけん!」と同時に言葉にした瞬間。
グラりとベッドがゆれた。
3人はどうしてベッドが揺れるのか分からないでいた。ユラユラと揺れるベッドが次第に横揺れになり「2人とも掴まれ」と修に抱きしめられて流星と葉月は地震だと気付いた。
ここ、数年、地震が頻繁に起こっていた。
直ぐに揺れがおさまるかな?と思っていたのに、揺れが酷くなり怖くなり2人は修にしがみついた。
目の前が暗くなった事は何となく覚えている。
◆◆◆
「あ、気が付いた……大丈夫?」
知らない声で流星は目を開けた。
自分を覗き込む顔。凄く綺麗な顔立ちをした人で女性かな?と思ったけれど声が低いし、それにどこかで見たことがあるような……。
少し葉月に似ていて、そうだつい最近みた顔だ。
えーと?と考えていると「修、男の子の1人が覚ました!」と誰かに声をかけた。
修?ってと流星が考えているとドスドスと足音が聞こえて「どこのガキンチョや?」と声がして流星の前に長法被姿の男性が現れた。
流星を覗き込む男性。それには見覚えがあった。
写真で散々みた。面影も残っているし、声も今聞いた声が若々しいがいつも聞いていた声と同じ。
「修ちゃん!!」と流星は飛び起きた。
「は?」
流星に名前を呼ばれてキョトンとする男性は紛れもなく若い頃の修だ。
「修……知ってる子?」
修の隣で流星と修を交互に見る人も知っている。いつも修の隣に居た人だ。
「凪!!」と思わず名前を呼んだ。
「あ?なん、凪ば呼び捨てしよっとかクソガキ!」
若くてカッコイイ修が自分を睨んでいる。
えっ?これって夢?俺夢見てると?と周りを見ると葉月が横に寝ている。思わず「葉月ー!」と名前を呼ぶ。
名前を呼ばれて葉月も目を開けた。
「流……ちゃん」
自分を見て名前を呼ぶ葉月にホッとする。
「良かった、そっちも目を覚ましたね」
凪が葉月の横に来て額を触る。
「まだ熱あるね、病院の先生連れてくるけん、修、子供達みてて」と凪は立ち上がる。
「見ていてもよかけど、親も探さんばやろうが?」
「それはこの子達から事情を聞いてあげなよ」と凪は立ち去った。
葉月はキョロキョロと周りをみて「ここどこ?病院にいたよね?」と流星に聞く。
「病院?なん、お前ら病院におったと?じゃあ、そこ行けば親居るとか?」
修は流星に近付く。
「これって夢?」
「は?なんいいよっと?」
質問されてキョトンとする修。
「だって、修ちゃん若いもん」
「はあ?当たり前くさ、俺は18ぞ!」
修は迫力出しつつ年齢を言う。
「えっ?18?」
「なんで驚くとや?老けとるっち言いたかとや?」
修は流星に凄む。
「流ちゃん……その人って……修さんの若い頃に似てる」
葉月は身体を起こして修をじっと見る。
「修……さん?」
葉月はまじまじと修を見て涙ぐむ。
「ちょー!なん?何で泣くとや?って、何でお前ら俺ばしっとっーとや!!」
修は泣く葉月にオロオロしつつ、訳がわからないので若干パニック起こしているようだ。
「ここってどこ?夢なん?俺の知ってる修ちゃんは70やもん」
流星も夢なのに長いなあとかリアルだなあとか思いつつも、なんか夢じゃないような感じもしてパニックになりそうだった。
「70っちゃ失礼やろ?なんや?俺に似てる同じ名前の奴がお前らの親か保護者か?」
「修ちゃんはじいちゃんの弟、名前は雨宮豊。修ちゃんは雨宮修」
「……同姓同名……きしょくん悪かなあ」
修は驚いている。
周りをキョロキョロしていた葉月が「流ちゃん、これみて!」と近くにあった新聞を手にして流星に渡した。
「日付」と葉月に言われて日付を見た。そこには昭和の文字。
「昭和……えっ?昭和?俺ら産まれとらんやん!」
流星は驚き葉月を見る。葉月も頷く。
「は?産まれてないってお前ら産まれとるけん、ここに居るっちゃろ?」
修はますます変な顔をして流星と葉月を見る。
「俺たち平成産まれだもん」
「は?なんや、平成っち?」
「昭和の次の年号」
「は?お前らなんいいよっと?今は昭和ばい?」
「……俺たちがおるとは平成やもん」
「やっぱ、検査した方がよかかもな……頭打ったっちゃろ?」
修はなんだか2人を憐れむような顔をしている。すると葉月が「あ、お金」とポケットから500円玉と10円玉を出した。
500円には平成27年と表記されていて10円玉には昭和57年と表記されている。
「は?これなんか?玩具か?ようできとるけど」
修はまじまじと見ている。
「玩具やなか!年号みてよ」
「昭和57年ってお前、今より20年くらい先やん」
「……俺ら……未来から来たってこと?」
流星は葉月と修を交互に見る。
「へ?はっ?未来とか俺に聞かれても……お前ら広場に倒れとったとぞ?」と修は困惑顔で言った。
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