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第9話
◆◆◆
程なくして修の兄が帰ってきた。流星にとっては祖父。
「先生に聞いたぞ、面白い子ば拾うたっちゃろ?」
帰ってくるなりニヤニヤしながら言う。
流星は若い祖父をまじまじと見る。結構カッコイイなと思う。
「お前か?俺の孫言うとは」と流星をみる。
「確かに修にも似とるばい」
「はあ?兄ちゃん信じると?頭大丈夫?」
修は兄の発言に驚く。
「なあ、俺の奥さん……えーと、ばあさんの名前は?」と流星を真剣に見る。流星は「まちこ」と答えた。
「よし!置いてやる」
名前を聞いて上機嫌になると「修、お前ちゃんと面倒みろよ?」と言って「風呂入ってくる」と風呂場に向かった。
「はあ?もう!クソ兄貴」と修はボヤく。
「ねえ、流ちゃん、なんでおじいちゃんはマチコって名前言うたら機嫌良くなったとかな?」
葉月は流星の耳元で小さい声で言う。
確かに……と思った。
まだ、独身っぽい様子でもしかしたら付き合っているのかな?と想像する。
「しょんなかねえ……ほらお前ら飯の用意するけん手伝え」
修は立ち上がり、流星と葉月を連れて台所へと行く。
手伝うから置いてくださいとお願いした手前、サボれない。
夕食の準備から片付けも2人でやった。
「お前ら風呂入れ……あー、着替えかあ」
修は2人を見て着替えをどうしようか悩む。すると「お前が子供ん頃のがあるやろ」と兄が子供用の服を持ってきた。
探してくれたようだ。
「ありがとうございます」
着替えを受け取った2人は頭を下げる。
「よしよし、ちゃんとお礼ば言えて偉かなあ」
兄(祖父)は2人の頭を撫でる。
流星の祖父は怒ると怖いのだが普段は理解力もあり、優しい。修と同じ昔から優しい人なのだ。
修も文句を言いながらも優しくしてくれる。
◆◆◆
「流ちゃん、これって夢だと思う?」
葉月は風呂に入りながら流星に聞く。
「さあな?夜寝て朝になれば戻っとるかもばい?」
「うん」
そんな会話をして、風呂から上がる。
寝る場所は昼間寝かせられていた座敷。2人並んで横になる。
「流ちゃん、手……繋いでよか?」
葉月は不安そうに流星に手を伸ばす。
「よかよ」
流星はその手を握る。2人だから安心できた。手の温もりを感じながら眠りについた。
◆◆◆
「お前ら起きろ!!」
修の声で目が覚めた2人。
若い修を見て、戻っていないのだとガッカリする。
「ほら、顔洗ってこい」
無理矢理起こされて洗面台へと行かされた。
「朝食の用意手伝えよ」
「はーい」
修の言葉に流星と葉月は声を揃えて返事をした。
顔を洗ってと戻ると「庭に行って鶏の卵取ってこい」とザルを渡された。
「鶏?」
えっ?鶏居たっけ?と流星は考えるが……あ、そうかこの時代は飼ってたのかと葉月と庭へと出た。
空は青く晴れていて自分達が居た世界と同じなのだと感動した。でも、この時代の方が空が良く見える。
電線があまりない。高いビルもない。
庭は広く感じた。何か足りないと。葉月も同じで違和感を感じたみたいでキョロキョロしている、そして「あ、そうかウツギの花が無いんだ」と言った。
流星と葉月が知っている庭は白いウツギの花が咲き誇っていた。
でも、挿し木を直ぐに見つけた。これがきっと大きく育って増えたのだと思う。
鶏は数羽飼われていた。
「よう、俺の孫と友人、おはよう」と真後ろで声がした。
振り向き「じいちゃん」と彼を呼んだ。
「あー、まてまて、じいちゃんはなかろ?俺まだ若い」
確かにと思う。
「豊さんでよかよ」と言われ豊さんと呼ぶことにした。
「俺たちの話信じると?」
あっさりと自分達を置いてくれる豊に質問する。優しい修だってあんなに嫌がったし、信じていなかった。
「俺の意中の女性の名前言うたけん、嬉しゅうなったと」
ニコニコと笑う豊。
「マチコばあちゃん?」
「ばあちゃんはやめろ!マチコちゃんはまだハタチばい」
あ、そうか、この時代は若いのだと思い「ごめんなさい」と謝る。
「俺が振られんって事やろ?マチコちゃんモテるとぞ?交際ば数人に迫られとるらしか」
その話を聞いて、確かに昔、そんな話を聞いたような……?
豊はニコニコしていて、心浮かれているようで見ていて微笑ましい。
「おはよう」
塀の向こうから声がした。そちらを向くと凪が塀から顔を出していた。
「凪、早かねえ?」
豊が声をかける。
「うん、2人が心配で」
凪は塀をよじ登り、庭へと入る。
「はいこれ、僕のおさがり」
凪は流星に袋を渡す。
「着替えないと困るだろ?僕が子供時代に着てた服」
わざわざ探してもってきてくれたのかと流星と葉月は感動する。
「ありがとうございます」
2人は深々と頭を下げる。
「こら、お前ら卵取るとに時間かかりすぎやろ!」
修が怒ったように庭に来た。
「凪」
直ぐに凪に気づく。
「修おはよう」
「来てたんか……ってお前玄関から来いよ」
「庭を通りかかったら豊さんと2人の声が聞こえたけん、ごめん」
「飯食うたとや?」
「まだ」
「じゃあ、食えよ1人増えようがかまわんけん」
修はぶっきらぼうに誘う。
「ありがとう。修の作るご飯美味しいから好き」
嬉しそうに言う凪を見て修は可愛く笑った。
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