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第13話

たくさん並ぶ本を流し見しなから凪は歩く。きっと、ジャンルごとに置かれている本の場所を覚えているのだ。 凪は物知りだ。彼にたくさんの事を教えて貰った。教えるのが上手くて、勉強が苦手だった修の面倒を見てくれたのが凪。彼のお陰で勉強が好きになり、教わるという素晴らしさにも目覚めたし、知っている知識を他人に伝える素晴らしさも凪に教わった。 全て本からの知識だよ?と前に言われたけれど、たくさんの本を読まないかぎり知識は身につかないものだ。 花の名前も凪に教えて貰った。 庭に挿し木しているウツギの花も凪が好きな花で、白く気高く見える花が凪のようで修も気に入ってしまった。 修の視線の先に花言葉。というタイトルの本が入った。 「花言葉」 「えっ?」 修が呟いたから凪も彼の視線の先を見る。 「ああ、花言葉ね。昔……トルコでは花に思いを託して恋人に贈ったとって」 「へえ、凪、物知り」 修はその本を手に取りパラパラとめくった。 ふと、ウツギの花の写真を見つけてその花言葉を見た。 「秘密」 凪が言葉にした。 「何が?」 「ウツギの花の花言葉。秘密って言うと」 凪の言う通り、花言葉は秘密と書いてある。 「そうなんや」 秘密……その言葉にはドキリとさせられた。 修には秘密があるから。凪に好意を持っているという秘密。 なんて自分にピッタリなのだと思った。 「秘密ってある?」 凪の質問はまるで修の心を読んだかのようで修をドキリとさせる。 「急にどげんした?」 冷静を装って返事をする。 「僕にはある」 「えっ?」 「僕の両親は本当の両親じゃなか……」 「へ?え?ええっ?」 凪の突然の告白に修は動揺した。彼の両親は修も会った事はあるがごく普通の両親で親子関係を疑った事がなかった。 「僕の本当の両親は……産んでくれた母は育ててくれた義父の妹で誰の子かわからないとって……だけん、僕の本当のお父さんはわからん。産んでくれた母が育てられんから引き取ったんだって」 凪は俯いているからどんな表情をしているかわからないけれど、きっと悲しそうな顔をしているはず。 「いつ……教えて貰ったと?」 修の質問に首を振って「話しよるとば偶然聞いた」と言った。 「それからあんまり家に帰るとが嫌で……ごめん、修んちに入り浸って」 ああ、そういう事?と修は納得した。ここ最近本当に凪は修の家に来たがった。幼い頃から入り浸ってはいたが夜はちゃんと帰っていたから。 「そげんと大丈夫や!!凪が居たいだけおったら良か」 修が強く言うと凪は顔を上げた。 「ありがとう修」 笑っているけれど無理して笑っている凪が切くて抱きしめたい衝動に駆られる。 でも、我慢!! しかし、次の瞬間……凪が抱き着いてきた。 それに驚いてバランスを崩しそのまま尻もちをつく。 「修!」 凪も一緒に倒れたが修が下敷きになったので平気そうだが心配して声をかけ離れようとした。けれど修の腕は凪を抱き締めていた。 凪が健気で我慢出来なくて気付いたら抱き締めていて離したくない。 抱き締められた凪は修の胸に顔を寄せて「心臓の音する」と言う。 心拍数が上がっているのは修自身にも分かっている、ドキドキしているのがバレているかも。 「修の胸って本当に凄い!羨ましい、男らしいけん」 「突然なん?」 「僕ね、修の水法被姿好き……凄くカッコイイけん。憧れるもん、修が山笠すると1番カッコ良かって思う」 「いきなりほめてから」 凪の言葉に修は照れる。 「本当やもん」 凪が顔を上げると物凄く近い。こんなに近くで互いの顔を見るのは久しぶり。幼い頃以来。 互いに見つめ合う。凄く長く見つめ合った感覚があったがきっとほんの数秒。 その後自然に顔が近付いて唇を重ねた。

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