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第14話
重ねられた唇は10数秒くらいで、唇がくっついただけだったのだが2人には満足な口づけだった。
唇を離して見つめ合う。
「……気持ち悪かったならごめん」
修は咄嗟にそう言った。自分が我慢出来ずに唇を重ねてしまったので凪に謝罪する。
「ううん、嬉しい」
凪は修の胸に顔を埋めると両手を彼の背中に回す。
心臓の心拍数が大変なくらいに上がる。修も我慢出来なくなって凪を強く抱きしめた。
◆◆◆
2人が離れたのは廊下で人の声がしたから。聞こえなかったらもう少し抱き合っていたかった。
2人はまた本を探す作業に戻るのだが、凪の横に立つ修は自然に彼の手を握る。
手を繋いだまま、本を探した。
◆◆◆
「遅かなあ」
流星と葉月は縁側に並んで座って庭を見ている。
空は灰色に変わっていて「雨降りそうだよね?」と葉月が心配そうに言う。
修と凪が傘を持って行かなかったから。本当ならばとっくに帰って来ている時間なのにまだ帰って来ない。
「お前ら、そろそろ縁側閉めろ」
豊はついさっき帰ってきて食事の支度をしている。
「はーい」
2人は返事をして縁側を閉める。
「今日はまちこちゃんががめ煮くれたとばい?凄かろう!」
豊はニコニコしながら重箱をテーブルの上に置く。
「まちこ婆ちゃん?」
流星は重箱を覗き込む。
「婆ちゃん言うな!」
「俺、婆ちゃんのがめ煮ばり好き」
流星はワクワク顔を見せる。
「がめ煮を豊さんに作ってくれたと?じゃあ、恋人になったと?」
葉月に聞かれ「おまえ、そげん直球に言うてからくさ!!」とデレデレ顔。その顔を見ると恋人になったのは明らかだった。
「いま、知り合いの子供預かってる言うたら豊さん優しいのねぇって夜ご飯のおかずにってばい?ほんと、まちこちゃんはあいらしかなあ」
大人も誰かを好きになるとこんなにも可愛くなるのかと流星と葉月は楽しげに豊を見つめた。
縁側の窓ガラスにポツポツと雨が当たる音がして流星は庭へ視線を向ける。
雨が降ってきた。
「俺、修ちゃん迎えにいく!」
「僕も」
2人は慌てるように玄関へ。すると勢い良く玄関の引戸が開いた。
「途中ふるっちゃもん」
修と凪が少し濡れて入ってきた。
「僕、拭くものもってくる」
葉月が台所へと走り豊にタオルが欲しいと訴えている。
「修ちゃん達遅い」
流星は退屈だったと言わんばかりだ。
「ごめんね流ちゃん、僕が図書室で本に夢中になっとったけん」
凪が申し訳なさそうに謝る。
「あー、お前ら先に風呂入れ」
豊が修と凪にタオルをそれぞれ投げる。
「流星達も一緒に入るか?」
修に誘われた流星は「さっき入ったけん大丈夫」と断った。
なので2人で風呂場へ。
「ほら、修も凪も帰ってきたけん、早う飯の支度するばい!」
豊に急かされ、流星と葉月は台所へ戻る。
その頃には飴は本降りに変わっていた。
◆◆◆
遠くで雷の音が風呂場にも聞こえてくる。
「もう少し遅かったらやばかったね」
凪は雷の音を聞きながら湯船に浸かる。
もう少し遅かったら……そう、2人で図書室で資料を探しながらも2人っきりの時間を楽しんでいた。
キスをしてしまった後は全ての時間が2人にとっては特別なものへと変わっていた。
2人で図書室とか初めてじゃないのに。それさえも凄く特別な時間と変わった。凄く不思議な感情。
なんて言葉にして良いか分からないけれど、世の中の恋人同士が感じるものと同じだろう。
見飽きた風景さえも新鮮に感じてしまうのだから。
自分が身体を洗うのを見つめる凪に気付いた修は「なんか、恥ずかしかぞ」と照れる。昨日まではこんなに照れる事はなかったのに。
「また、修の胸かしてね」
「おう!何時でも良かぞ」
「ありがとう」
凪に微笑まれ、修はまた照れる。
「ウツギの花を修にあげたとには意味あった」
「へ?」
修は突然の言葉にキョトンとなる。
「花言葉……修がウツギの花の花言葉ば見たけん、もう押さえきれんかった」
「秘密……」
ウツギの花の花言葉は秘密。
「僕の秘密……ずっと修が好きだったっていう秘密」
「凪……」
「一生気づかれん思いやけん、死ぬまで秘密にしとこうって思っとった」
「お、俺も……」
修も凪の言葉で胸がつまった。
「修が独身って聞いて僕はホッとしたとよ?誰のモノにもなっとらんって」
凪はふふっと幸せそうに笑う。
「俺は……凪のモンたい」
「修」
2人見つめ合った。
凄く凄く幸せな時間だった。
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