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第18話
◆◆◆
居間に父親と社長が座っており凪の帰りを喜んだ。
「今日、帰ってきてくれて良かった、本人抜きで話すのも気か引ける」
父親が手招きする。
凪はただいまと言って社長に軽く頭を下げた。
「凪くん、久しぶりだね」
社長はニコニコと愛想良く凪に微笑みかける。
「はい」
凪は社長と向かい合わせに座らせられ、大人同士話し合った内容を父親が話し出した。
母親が玄関先で言った素敵な話とは社長の娘の婿にという話だった。
凪は驚き言葉を発することが出来ずにいる。
「凪、大学に行かせてくれるとって……行きたかったんやろ?私らじゃ行かせられんけん、学校出たら就職するって凪は言いよったけど、社長さんが凪の大学資金まで出してくれてゆくゆくはお嬢さんの結婚相手にって」
母親は凄く嬉しそうで。父親も。
これは凪の返事は必要がない決定事項のようなもの。
「ぼ、僕……」
嫌だと言いたい。
でも、もし嫌だと言ったら?
「直ぐにではないから焦らないでいいよ凪くん、娘も凪くんとならって言っているし」
社長は笑って凪を見ているが瞳は笑っていなくて、凄く怖い。
「あの、僕、着替え」
堪らず凪は立ち上がった。
「こら凪失礼だろ!」
父親に怒鳴られたが社長が「そりゃビックリするよね」と制止する。
凪はそのまま2階へと逃げ込んだ。
なんだろうこれは?
部屋に入り座り込んだ。
心臓が物凄く脈打って、頭が真っ白だった。
修……。
修の顔がチラつく。やっと、やっと思いが届いたのに。なんで?泣くというより暗闇に突き落とされた絶望感が襲ってきた。
◆◆◆
物凄く長く座り込んでいた感覚だが時間的には1時間も経っていないようで、修の家に行かなきゃとフラフラと立ち上がった。
1階へ降りると社長の姿が無くてホッとした。
父親が凪に気付き近寄ってきた。
「良かったな、大学いけるぞ」
凪の気持ちはまるで無視した言葉に無言で父親を見つめる。
「凪断るんじゃないぞ?分かっているだろ?もし、断ったら……」
もはや脅迫という言葉まで付け加えてきた。
「嬉しいんだ?僕が好きでもない人と結婚しても……」
凪は小さな声で言う。
「父さんの結婚だって、親が決めてきた。母さんと初めて会ったのは紹介の席だったし、それでも夫婦で今までやってこれたし、凪の場合は逆玉の輿だろう?断る理由はあるのか?昔っから優しくしてくれてたし、向こうも凪を可愛かってくれてた。娘さんはとても良い子で大和なでしこだぞ?悪い話じゃない。結婚だって大学出るのを待ってくれるみたいだし」
父親と母親はとても素晴らしい話だと嬉しそうだ。そりゃそうだ。ここら辺の地主で金持ち。
「僕……修のとこいってくる」
凪は荷物を持ってフラフラ歩き出す。
「まだ話が」
と言う父親を無視して凪は家を出た。
どうしようもない……助けて修!!
◆◆◆
「修ちゃん彼女おると?」
流星はストレートに修に聞く。葉月に脇をつつかれて目が『いきなり?』と言っている。
夕食を皆で作る中での会話だ。
「流星はマセガキやな」
修はそう言って笑う。
「気になるやん!!」
「子供がそげんと気にせんでよか!」
帰りたいか?と聞いたら元気無くなったくせにませた事を言い出す。さすが子供、切り替えが早い。
「ただいま」と玄関で豊の声がし、そのあと直ぐに台所へとやってきた。
「おかえり」
3人で言葉をかける。
「あれ?凪は?」
豊はキョロキョロと凪を探す。
「着替え取りに行った」
「そうや」
豊は上着をその場で脱ぐとポケットから何かが落ちた。
「なんか落ちたよ?」
葉月が気付き教える。
「おっと!これはいかんばい」
豊は慌てて拾う。
「なんね?」
修が気にしながら聞く。
「へへ、ちょっと奮発したったいね!まあ、安モンばってん」
豊は嬉しそうな顔で言う。
「えっ?なん?」
「結婚指輪ばい!」
「えっ?ええ!!」
修と流星と葉月は大声を出す。
「え!展開早くなか?この前付き合うっち、言いよった」
修が物凄く驚いた顔で何故かオロオロしている。
「男女が付き合ういうたら結婚前提やろ?遊びやないっちゃけん!そいにまちこちゃんの誕生日もうすぐやん!誕生日に結婚申し込もうと思うて」
キラキラ輝く顔の豊をみて、流星は昔、祖父とのなりそめを祖母に聞いたときに『誕生日に結婚申し込まれたとよ、凄くうれしかったよ』と言っていたのを思い出した。
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