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第2話

「よっこらせっと」 俺はとりあえず浅瀬に移動し胡座をかいた。 幸い天気は晴れ、日射しはあったかい。 水につかった尻は冷えるが。 スポーツに縁のなかった体は驚くべき白さで太陽の光を反射している。 俺、発光体になったのか?ってくらい白いな。 もうずっと有給もほとんどとれなかったし、ほぼ会社務めだったもんな。休みは寝て過ごすだけ。 なんつー虚しい生活してたんだろ。 ふと、胸元を見ると… 俺が高校の時から大事に育てていた胸毛3兄弟が居なくなっていた!! なんてこった俺のたった3本しかなかった胸毛が…! 俺の心の友が!! いや、それは言い過ぎたな。 俺の風呂の友が!!! 時々抜けて三兄弟がただの兄弟になってもすぐに元通りになっていたというのに… 今はひとりも居ないだと!? 俺はここにきて一番の衝撃に襲われた。 たかが胸毛、されど胸毛。 俺のささやかなセックスアピールが…一度も誰にアピールすることなく消えてしまった。 はっ!として俺は右腕を見る。 腕のちょうど真ん中にあったはずの黒子を見る。 こいつは30代になってから急に長い毛をちょろりと生やすようになった、なかなかに味わい深い黒子だった。 だったというのに… こいつもまた、消えていた。 なんてこった!! OMG!!ってこういうときに使うんだろな。 しかし、薄々気付いていたんだが… もしかしてこの体は俺の体じゃないんじゃないか? 髪は延びてるし、胸毛も黒子も消えているし。 それになにより… 胡座をかいてると見えるんだよな、俺の息子が。 コンニチワーとばかりに頭を垂れるそいつは… パイパンだった。 見事なつるっつるだ。 おれの息子が隠れる繁みが何処にもねぇ。 とりあえず俺はパイパンからはそっと目をそらした。 俺のジュニアが例えだけでなくジュニアな見た目になっていることにも目をそらした。 精神的な何かがごりごりと削られていく… そのまま俺はどっこいしょ、と起き上がる。 掛け声は仕方がない36歳はおっさんなのだ。 最近、微妙に痛かった膝が痛くないとは…この体は随分若いらしい。 しかし、そうだとしてもこんなところで座り込んでいても仕方がない。 日射しは暖かいがこのままじゃ尻と腹が冷えるだけだ。 尻と腹が冷えたらどうなるかなんて、若さは関係ない。 浅瀬の丸くなった石を踏みながら水から上がり、束ねた髪を再び絞る。 バチャバチャと垂れた水を見るともなしに見てた俺が顔をあげると… そこにはなんとびっくり!人がいた。 え!? さっきまでいなかったよな? その人物は酷く驚いた顔で俺を見ていた。 テ・ラ・イケメーン!! 銀色の髪に青紫の瞳とかなんだここ、ファンタジーか!? っていうか、あれ、もしかしてこれ、ファンタジーなんじゃないか!? 「…ニンフ?受肉したのか?」 イケメンは声までイケメンでした。 うん、こいつはモテるな。 イケメンが話しかけてきたので俺は苦笑いを返すしか無かった。 いや、だって考えても見ろよ、すっぽんぽんのおっさんもどきが川の中で立ってるんだぜ? うん、俺だったら話しかける勇気ないね! そんな俺の前にイケメンはゆっくりと近づいてきた。 「私はラズマ。ニンフ様、共に来ていただけますか?」 「ニンフ?」 「ああ、精霊には人の呼び名では通じないのですね。何とお呼びしましょうか?」 「ジ…」 名乗ろうとして戸惑う。 こういうとき、名前を全部言うと相手に『縛られる』とかあった気がする。 俺の気のせいかもしれないけど。 「ジ?」 聞き返してくるイケメン改めラズマに慌てて名前を考える。 「ジーン」 伸ばしてみた。 安直だとか思ったさ、でも無理だろ?咄嗟に偽名が浮かぶやつは絶対詐欺師だろ。 「では、ジーン様、私と共に来ていただけますか?」 ラズマは自分のマントを外して俺の前に拡げた。 その魅力に逆らえるやつがいるだろうか? いや、いないだろう。 イケメンパワー? 違う、そんなものは純然たる事実の前では何の役にも立ちはしない。 そう、思い出してほしい。 俺が… 真っ裸だということを。 おれは、躊躇いなくそいつが拡げた布の中へ飛び込んだ。 すっぽりと包まれる安心感。 ああ、いい、やっぱり、布は大事だ。 俺は思わず安堵の息をはいた。 とにかく俺にはラズマがイケメンだろうとブサメンだろうと関係無かった。 今、俺に必要なのは布、それも全身がかくせるやつな。 ああ、布のある生活、素晴らしい。

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