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第5話

しんと静かだったはずが一転して辺りがざわざわと騒がしい。 「ん?ラズマ?遠駆けにいったんじゃないのか?」 「それ誰だ?」 「ひゃっ!」 「おい、どうした?」 「なにそれーうまそう!!食べていい?」 おおい!最後のヤツの発言明らかに肉食系だよな!? 思わず振り返ってみると目にも鮮やかなカラーリングのファンタジー感溢れるやつらが揃っていた。 「ほう、双黒とは珍しいな」 最初の発言はインテリ風眼鏡。 グラデーションのついた金茶色の髪と同じく金色の瞳はカラメルたっぷりのプリンじみた艶めいた甘さがある。 でも、それよりなにより気になるのは、くいっと眼鏡を上げたそいつの頭から肩にかけて狐みたいなやつが乗っているってこと。 狐は眼鏡氏と同じ金茶色の瞳でこっちをじっと見ている。 「川で出会ったんだ、おそらくニンフだとおもうんだが…ジーン、ここに居るもの達は皆精霊や妖精と契約をしています。端から、フウ、エストロ、プロフ」 彼等に向けるラズマの言葉が砕けたものになったし、ここにいるやつらはラズマの友達か、同僚ってところだろうか。 広い食堂のような場所の角にあるテーブルの前でおれはぺこりとお辞儀をした。 「ジーンです。よろしくお願い致します」 どんな作法が必要なのか解らないけれど挨拶は伝わるだろう。 「フウだ。フフウ=ヒクリカ。こっちはケン」 最初に紹介されたインテリ眼鏡のフウは狐の頭をなでながら自己紹介してくれた。 狐は金色の瞳を細めたあとケン!と鳴いた。 ケンとなくケン!! 頭よさそうな見た目しておきながらなんという安直な名前!! いや、むしろ合理的なのか!? 「俺はプロスティ。プロフって呼べよ。こっちは相棒のシリー、シルフだちょっと人見知りなんで追々なかよくなってくれ」 にかっと笑った男はまさに筋肉だるま。見事なマッチョメンだ。布越しに筋肉の凹凸が解る。胸板半端ない。 よく日に焼けた肌の深緑色の髪にこれまた同じ色の瞳。 そのマッチョメンの固そうな腹筋に顔を埋めているのは気弱そうな明るい緑色の少年。 ちらっとこっちを見て真っ赤に顔をそめて小さい声で「よろしく…」といってまた筋肉…ではなくプロフに顔を埋めた。 ぐっ…かわいい。 「俺はエストロ。こっちは相棒のランダだ、っちょっ!おい、おちつけ!」 墨のような黒と眩しい赤の入り交じる不思議な髪に朱金の瞳の青年は自己紹介しながら 「なあなあ、たべていいの?たべていいの?」 という明らかに不穏な言葉を発している子供の頭を抑えていた。 子供は燃えるような赤い髪と瞳でこっちを見ながら舌なめずりした。 ひいっ!怖ぇ… 俺は思わずラズマにしがみついた。 「すまんな、ランダはまだ子供でな。いつもはもう少し違うんだが…」 エストロは申し訳ないと頭を下げてくれるがランダ怖い。 目が腹の減った爬虫類の感じだからか? 「すまないがシリーの服を貸してくれないか?」 ラズマに頼まれこくりと頷いたシリーは赤い顔でこっちを向いてくるりと指をまわした。 すると俺の前に畳まれた服が何処からともなく降ってきた。 「おぉ」 思わず感動しながらそれを受け取り、礼を言うとシリーは無言で頷いたあとまた筋肉の後ろに隠れた。 俺とシリーの身長差のせいでプロフは筋肉にしか見えない。 暑苦しい筋肉はともかくピョコピョコ顔だすシリーは可愛い。 非常に子供らしい仕草におっさんの俺はほっこりする。この二人何でコンビ組んでるんだろ? 「ジーン着られますか?」 俺はとりあえず布を広げた。 ぱっと見俺の知っている服とそう大差ない作り、いわゆるワイシャツに近い。 あとはズボン、ズボンフィッシャーマンズパンツ的に巻いて紐で縛るタイプのようだ。 この世界はゴムが無いのかな?下着は無かった。下着の存在は不明だ。 ばっとマントを脱いで持ち主…ラズマに渡した。 まあ、素っ裸だけど男同士だしいいだろ。そう思ったのは俺だけ立ったらしく、うわっ!とか口笛の音とかが聞こえたしラズマが慌ててマントを広げて周りから見えないようにしてくれた。 ラズマも顔を横にそらしている。 う…すまん、見苦しいものを見せてしまった。 うん、申し訳ないことをした。 上着は頭から被るタイプの服だった。 でっかいTシャツみたいな感じ。ふとももまで隠れるその服の滑りの悪い木のボタンに苦戦しながらとめズボンを手にとる、パツンはないが仕方なくノーパンでズボン履こうとすると膝が血だらけなことに気づいた。 このまではシリーの服が汚れてしまう。借り物なのだからきれいに着ないとまずいだろう。 「ラズマ、膝を洗いたい…」 そう声をかけるとラズマがこっちを向いて俺の血だらけの膝に息をのみ、慌てた様子で椅子に座らされた。シリーは真っ青な顔で俺に濡れた布を渡してくれた。 「これはひどい」 インテリ眼鏡のフウが顔をしかめた。 膝をついて俺の傷を確認していたラズマはほっと息をついて「よかった、もう塞がってますね 先ほどの治癒がきいてたのか?」とつぶやいて、俺の持っていた布を取って膝に当てた。 足を持ち上げられ、俺は慌てて服の裾を押さえる。 ノーパン!俺ノーパンだから!! ひぃっ!見える、みえちゃいけないやつが見えてしまう! ひんやりした水分を含んでいる布がこびりついた血を溶かしていく。膝はみるみる綺麗になっていく。 「治ってるとはいえ結構な血の量だな。で、それは?」 顔をしかめながらインテリ眼鏡が言うとラズマは忌々しそうに 「ジーン殿はヨーサンのくそオヤジに、突き飛ばされて倒れたんだ。ニュンペー程度は謁見の必要はないってな、次はもっと強い精霊を連れてこいと…まったくふざけたヤツだ」 と言い捨てた。 その、言葉に食堂全体がざわりとした。 どうやら他のやつらもこっちの話を聞いていたらしい。 …なるほど、俺の素っ裸も全員に見られたのか(遠い目) 「では、審査も謁見もせずに?」 「ああ、側近のヨーサンが帰れっていったんだからいいだろ」 驚いたインテリ眼鏡のフウにラズマはちょっと悪い顔でにやりと笑った。 そして俺の膝を拭き終わるとにっこりと笑った。 「さあ、そのままでは目の毒だ、ジーン、失礼しますよ」 ラズマは俺にズボンを履かせてくれた。同時に下着は後で買いに行きましょうね。とも言われた。 しかもずれてとめてたボタンまでつけ直してくれた。その手早いこと…うん、ラズマはおかん系なんだな。 「さて、ジーンの能力はわからないが、この儚さでは早々に淘汰されてしまうだろ?そうわかっていながら森に還すのも忍びない。だから保護できる強い契約者が必要なんだが…今空いているのはエコーくらいか?」 ラズマが皆に問いかけると 「エコーの相棒はそろそろ子づくりしたいって数年前に巣に帰ったが…」 「うーん、強さはともかくとして…相性はどうだろうな…前のヤツは気が強かったからな~」 「そういえば最近スイ・ヨーがフリーになったって…」 「それならヴァンはどうだ?あいつのとこはどうにもうまくいかないからって最近も喧嘩してたぞ…」 あちらこちらで話が聞こえてくる。 どうやら契約はさほど拘束力の強いものではないらしい。 当たり前だけれど知らない名前がポンポンほいほい出てきて俺を置いてきぼりに話が進んでいく。 まあ、仕方がない。 ラズマがいいおかんならぬ、いいイケメンだってのはわかったから信用して任せよう。 面倒になったとかじゃないぞ、だんじて違うぞ? 俺はラズマ達と話し込むインテリ眼鏡の頭から降りて俺の目の前のテーブルにちょこんと座った狐をそっと撫でた。 フウと同じ金色と茶色が混じったなんとも美味しそうな感じの色。お腹と首の下は白い。その首をそっと指で擽る。 狐は気持ち良さそうに目をほそめるので俺も嬉しくなる。 どこからともなく小さい茶色い頭の小人が自分の体ほどあるクッキーをよたよたと抱えて持ってきてくれた。 ざ、妖精って感じの緑の服が可愛い。 ブラウニーだろうか?体に対して大きすぎるものをよろけながら持ってきて差し出してくれた。これは多分、クッキー的なもの。 俺はありがたくそれを受け取ってひと欠片割って渡すとぱあっ!と嬉しそうに笑って机の端に座って食べ始めた。 そいつの横にいた水色の妖精にもクッキーのかけらを渡す。欠片なのにふたりとも両手でもってかじる大きさなのが可愛い。 俺もかけたクッキーのかけらをかじる。少し固いがほんのりと甘くてナッツの味がする素朴で美味しいクッキーだった。 狐にも差し出すとぱくりと旨そうに食べた。 うん、餌付け成功だ。 そこにキラキラと光る粉を撒きながら羽のついた妖精が二人でコップに入った飲み物をふわふわと飛びながら持ってきてくれた。 礼をいって受け取る。コップの底に赤いコーディアルが溜まっていたのでついていたスプーンでかき混ぜ、薄いピンク色になった水をスプーンですくった。 そのスプーンを持ってきてくれた妖精に差し出すと嬉しそうな顔でこくこくと飲んでくれる。飲み終わるとまるでお礼をいうかのようにキラキラの粉を撒きながら俺の回りを飛ぶ。 声は無いのにキャラキャラと不思議な鈴のような音がする。 やばっ!かわいい!! なんだこのメルヘン空間!! こいつら可愛すぎだろう!! 俺の頭に登るふわふわしたやつも、勝手に長い髪を編んでいくやつらもいる。 シリーは器に入れたクッキーを持ってきて、ラズマの後にさっと隠れたけれどこっちを気にしてる。 やべー楽しい。 俺は菓子をもって集まる小さい妖精的な生き物達にせっせとお菓子を与えてしまう。 彼等も嬉しそうにそれを食べてくれるから気分は動物園の飼育係だ。 俺がひっそり楽しんでいると視線を感じると円卓を囲んでいたラズマ達がこっちを見ていた。 今気づいたけどエストロはなんか目元がセクシーだ。タレ目だからか? 「ふむ、なるほど、どこにでもいるというとはどの属性とも相性がいかいということか?興味深いな」 インテリメガネはなんか頭良さそうに分析してる。 「好かれるってことは助けて貰えるってことなのか?ランダ、ジーンのことどう思う?」 エストロがそうランダに聞くと 「俺あいつ好き!食べていいーい?」 怖い! 相変わらずランダが俺のこと食べる気だよ!?ひぃっ!こっち来てる! 俺の周りの妖精達が一斉に逃げ出した。 ギャー!薄情もの!! わわっ!したなめずしながらこっちきてる!! 飼い主!!エストロ!! 笑ってないでしっかり止めてくれ!! 「ダメ~!!」 俺を守るようにひしっと緑色の髪の毛がしがみついてきた。シリーだ。 「食べちゃダメなの!ジーンは食べちゃダメなのーー!!」 「そうだぞランダ、ジーンは食べちゃダメだ」 おそまきながら飼い主のエストロも止めたのでランダはちえーっという感じで離れていった。 俺にしがみついていたシリーもほっと息をついて、そしてビクッとした。 どうやら自分が俺にしがみついていることに気づいたらしい。 ぎこちなく俺からギシギシいうんじゃないかという動きで離れ… 「ひゃやぁぁぁあん!!」 と、なんだかちょっとセクシーな声をあげてぼんっと消えた。 俺達はぽかんとした顔でお互い顔を見合わせた。 「こりゃ、シリーの初恋か?」 マッチョボディーなプロフは脳味噌も筋肉らしくアホなことを言っていた。 何いってんだこんなおっさんにいたいけな美少年が恋するわけないだろ。

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