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第6話

ノーパンながらも俺は服と靴(サンダルみたいなやつ)をゲットし無事に脱変態となった。 脱変態の次は脱不審者だ。 身元不明の不審な俺の保護責任者的な契約者になれるやつを探すことになった。 俺が妖精や精霊のニンフとかニュンペー?なのかどうかはひとまず置いておこう。 俺自身がよくわからんのだからどうやったって答えが出ないし。 つうかこんな不審な俺の契約者になってくれる奇特なやつが本当にいるのだろうか…甚だ疑問だ。 まあ、とりあえず俺とラズマは保護者候補の人が居そうなところに行くことになった。 ちなみにさっきいた場所は食堂ではなく談話室のような場所だったらしい。 あのメンバーは大概、奥の円卓にいるんだと。 仲良しメンバーなのかな。 「まずは…そうですね、スイ・ヨウメィの行きそうな所から行ってみましょうか」 そういって歩きだしたラズマに俺は一番気になっていたことを口にした。 「精霊と人は違う?」 「ええ、ジーンのように受肉し実体を持った精霊だとしても、人と精霊は魂の形そのものが違います」 ラズマは歩く速度は変えずすこし遅れてついていく俺の方に顔をすこし向けた。木漏れ日がラズマの銀色の髪にあたってキラキラと輝く。俺なんかよりずっとラズマの方が妖精みたいだ。 「魂の形?」 「ええ、人の命の火は胸の奥で燃える一握りの小さな火。妖精は炎、そして精霊の命の火は燃え盛る焔。炎は存在そのものの強さ。我々人間の契約者は人では持ち得ない強大な炎のから生じる火の粉を使わせてもらうだけの矮小な存在ですよ」 俺の周りの何かを見ているようにラズマそうに目を細めた。 人と精霊の契約はWin-Winな関係なのかと勝手に思っていたけど…どうやらそうでもないのかもしれない。 「ジーン、貴方の焔はとても柔らかく暖かい」 どういう仕組みかわからんがラズマには俺が間違いなく精霊に見えてるらしい。 俺もラズマの真似をしてじっとラズマを見る。ラズマの周りは… 特にこれといって何かあるようには見えない。 見上げる俺にラズマはなぜか気まずそうに口元を押さえて目を反らした。 ん?ああ、無精髭があるのか。 やっぱり髭も銀色だから全然気付かなかったな。 うーん…とりあえず俺には判断できないことなのでだまっておこう。 それより引率されるままについていくつもりだったけれど、早々にサンダルが擦れて脚が痛くなってきた。 ぴょこぴょこ奇妙な歩き方になった俺に気づいたラズマがしまったという顔をして歩みをとめ… 「うわっ!」 俺を軽々と抱き上げた。 軽々と、だ。 ぐぬぬ、おっさんがイケメンにお姫様抱っこされるとかほんとマジでなんの怪現象だよ。 うむむ… 俺が縮んだのか、こいつらがでかいのか、どっちなのか非常に気になる所だ。 「気が回らず申し訳ない」 そう謝られてむしろ俺の方が恐縮する。 「いやいや、こちらこそひ弱で申し訳ない」 本当にマジで申し訳ない。 「貴方を抱き上げて運べる契約者となるとスイは無理か…ならばエコーかヴァンでしょうね」 うん、と納得した顔でラズマは言い切り俺を抱き上げたまま移動しはじめた。 ええ!? 契約者は俺を抱き上げて移動するのがデフォになるのか!? それは、それはどうなんだ!? いや、歩くよ? むしろ率先して俺は歩くぞ!? 意気込みはいいが地面に足がつく気配がない。 「おや、あそこにエコーが…うん?」 噴水のようなもののそばにはーー どでかい羽根の生えたライオンみたいな鳥がいた。 あれは…グリフォンか!? グリフォンとその側にいる人、あれがエコーさんか?1人と一匹はとても親しげにしていた。すり寄る巨大なライオンの鬣をしがみつくようにワシャワシャしてる。楽しそうだ。 「残念、エコーはもう相棒が決まったようですね」 それからラズマに抱えられたまま、俺は他の人のところに回ってみた。が、誰も彼も皆それぞれの精霊と思わしき相手と楽しそうに過ごしている。 俺とラズマはそれを遠巻きに見るのを繰り返した。 なんとなく、相棒って感じなのかなって思った。どこでみかける契約者と精霊はとても仲がいい。息が合うとか、一緒にいると楽しい。そんな関係なのがわかる。 「もう少し時間をかけて探しましょうか」 ラズマは気をつかってそういってくれたけれど…俺は異世界でも相方の居ない生活を送ることになりそうな予感がする。 結局、今日の俺の契約者探しは不発に終わった。 一緒に探している間にラズマは色々と教えてくれた。ラズマ達はこの国の軍隊に所属しているんだそうだ。因みに、ここでの軍隊の敵は他の国ではなく魔物。 軍人は精霊の力を借りて魔法の威力をあげ、魔物に対抗するそうだ。攻撃の得意なものは前線に出たりもするけれど後方支援や軍人の力の底上げ的なものをするらしい。 魔物と精霊と妖精は何が違うのかと聞いたら何も違わないそうだ。 要は闇堕ちした精霊が魔物と呼ばれるらしい。 魔物が増えると人間は食べられ、精霊も被害に遇う。妖精も精霊も大切なものを失うと闇落ちする。特に力のある精霊が闇落ちすると元々強かった分物凄く強い魔物が生まれてしまうそうだ。 力の弱い妖精は魔物に近づくだけて死んでしまうし、精霊も魔物に近づきすぎると魔物の発する瘴気に侵されてしまう。人は魔物に対抗するには弱いけれど、そのかわり瘴気の影響を受けにくい。魔物に直接触れても即瘴気に侵される。なんてことにはならない。 だから精霊と人間がタッグを組んで討伐するんだそうだ。まあ、持ちつ持たれつなんだな。 さて、俺が今居るのはラズマの部屋だ。 ラズマは実は仕事中だったらしく、これから会議があるからと俺の足の治療をしてから出ていってしまった。 とかくラズマはいいやつだ。 談話室とどっちがいい?と聞かれたが…とりあえず1人になりたかったのでラズマの部屋に邪魔させてもらった。 部屋は基本的に二人部屋仕様になってるそうで、ラズマの契約精霊は常に部屋に居ないから好きにつかっていいと言っていた。 二人部屋だというのに… 部屋には大きめのベッドとソファーしかない。二人部屋なのにベッドがキングサイズ。 簡易キッチンの側にカウンターとスツール。 あえて言おう。 これは同棲カップルの部屋なのではないかと。 リヴィ…女の人なのかな…。 いや、人じゃないな。 いいのかな、俺、ここにいて。 会議中のこの部屋の主の帰りをソファーで膝を抱えてまつのは精神年齢36歳のおっさんだ。 なぜ精神年齢36かだって? 俺の見た目が若返ってたからだな。 ずいぶん前にみたことある、そう、十代半ばの俺だ。 成長期が来ても身長がそれほど延びなかった俺の身長は173センチと微妙な高さだ。日本人的には高いとは言えないが低くもない。年齢的にみたらまあ、平均値くらいだろう。 この世界の人間の背が高すぎるんじゃなくて、まさか俺が縮んでるなんて!!という衝撃の事実はここには存在しなかった。 俺がこの世界の平均より低いってだけだ。 若くなったけど身長はそのままだ。 切ない。 髪の毛と年齢意外はさほど以前の俺と変わらない。さほど、であって全く違わないという訳ではない。 シモ以外はな!!(怒) マイサンはピュア感溢れる未使用カラーだ。 黒子も胸毛も無くなるし、まっさらボディーだ。 こんなにまっさらならパイパンにもならぁな!あっはっはー…はぁ… これから来るのか?俺の成長期は… せめてパイパンから脱出したいが生える気配が微塵もねぇ… ため息をついたところノックと共に扉が開いてラズマが入って来た。 「おかえりなさい」 反射のように言った俺の言葉にラズマはちょっと驚いたあと凄く嬉しそうに笑った。 まるでラズマの周りがきらきら その顔を見て、あ、こいつ本当に寂しかったんだなって思った。 俺みたいなぱっとしないガキがお帰りって言うだけでこんなに喜ぶなんて。 「ただいま戻りました」 はにかみながらまっすぐ俺の側に来てラズマは俺の頭を撫でた。 何でラズマの相棒はこいつの側にいてやらなかったんだろう?皆あんなにべったりと一緒にいるのに…不思議でしかたがない。 俺がラズマを見上げるとラズマの青紫の瞳が細められた。 綺麗な瞳だな~とぼんやり見ていたら口が空いていたのかもしれない。 口に何か入れられた。 舌で確認するとカラコロと転がる硬い物体。 甘い。 これは…飴?レモンみたいな柑橘系の飴玉。 「妖精や精霊は大概こういった甘いものが好きなんですよ。リヴィには買うことはなかったんですが、ジーンは好きそうなので」 そういって俺の手の中に可愛らしいリボンのついた飴の入った瓶をのせてくれた。 カラカラと転がる透明な飴。 強い甘さがじんわりと張りつめていた気持ちをほどいていく。 俺は瓶の中から飴をひとつ摘まんでラズマの口におしつけた。 ラズマはちょっと恥ずかしそうに口をあけてくれたから飴は白い歯の間から口の中にコロンと落ちた。 「おいしいな!」 そう言おうとしたけれど口に入った飴がじゃまで「おいひいにゃ!」と気の抜けた言葉になってしまったけれど。 俺とラズマは顔を見合せ同時に笑った。 会ったことないリヴィには悪いけれど俺の契約者が見つかるまではラズマの側に居させてもらおう。

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