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第5話

 「みーちゃん、好き、好き。」  俺と結城には共通点が幾つかある。  一つ目は金曜日の講義は午前中に終わる時間割だということ。二つ目は好みの映画がほぼ一緒だということ。  三つ目は、お互い誰かに依存したり依存されるのが好きだということ。  *  久しぶりに金曜日にバイトのシフトが入ってなかった俺はこの空いた午後の時間を映画でも見て過ごそうと月曜日あたりから決めていた。最近はバイトだけでなく、大学の方も忙しかったため、見逃してた新作や気になっていた作品などが溜まりに溜まっている。忙しいから今度、と言い訳ばかりしているから最近は何の映画が流行っているのかチェックすらしていない。しかし今日は時間がたっぷりある。思い立ったら直ぐに行動しようと講義が終わると真っ先に近所のレンタルショップで見たかった映画の作品を幾つか借りることにした。  なんと嬉しいことに今なら旧作は100円で新作も準新作も半額というキャンペーン中だ。  円盤が幾つも入ったカバンを抱え、この中で気に入った作品があるといいな、と思いながら帰宅するとやけに見慣れた靴が綺麗に玄関先で並べられている。すると奥からバタバタと足音を立てながら「おかえりー!」と出迎えてきた人物に心の底からため息をついた。  「突然だけど来ちゃった!」  「…結城、俺今日は映画見たいんだけど。」  「ひどい!それなら俺も誘ってよ!」  でも来たから一緒に見られるね、と嬉しそうな顔で笑う彼に俺は何も言うことが出来ない。確かに来てしまったのなら追い返すことも出来ないな。金曜日のシフト、俺だけじゃなくて結城も入ってなかったことにどうして気付かなかったんだろう。  結城は俺よりも早くに講義が終わったらしく、真っ直ぐ俺の家まで来ては一緒に食べたいと手作りのクッキーを焼いていた。自炊はするが、料理にはそれほどこだわりや興味がない俺と違って彼は和食、洋食はもちろん、お菓子作りもこなせるほど料理が上手だ。もちろん味も申し分ない。  共にお菓子と飲み物を用意しながらどの作品から見るか相談して決めた映画をデッキに読み込ませた。  見ようと決めたその映画は恋愛ものだ。別に恋愛ものは好みじゃないが、好きな映画監督が撮っているからという軽い気持ちで借りた。その監督独特の世界観や演出がどれも自分の好みで感情移入もしやすい。少しだけ涙ぐんでしまったがこれも自宅で映画を見る特権のように思える。映画館だったら泣くのを我慢するのに必死で内容が頭に入ってこなかっただろう。  長編の映画だったため、エンドロールが流れたとき外はすっかり夕焼け色に染まっていた。  「やっぱり凄い好きだなぁ、この監督の作品。テレビの前で見ていることをついつい忘れちゃう。」  「すげー分かる。俺も感動のあまり少し泣いたし。」  「え、みーちゃん泣いてたの?」  うわあ、見たかった…と落ち込む結城。自分同様、それほど映画を見ることに夢中になっていたということだろう。結城とは性格からすべて真反対だが、趣味が同じというのは実はかなり嬉しい。こうして共に映画が好きだと言ってくれる友人は周りにいないからかもしれない。せいぜい居ても話題作しか見ないとか目当てのキャストがいるからとかだ。  さすがに一気に長編映画を見たわけだから少し休憩しようとソファーから立ち上がって冷蔵庫から冷えてる飲み物を取りに向かおうとした時、結城は俺の腕を掴む。  そのままソファーに戻されて、結城の体に倒れ込んだ俺は驚きの声を上げたが彼は悪びれる様子もなくクスクスと笑いながら「かわいい。」と呟いた。  「ねえ…ちょっとだけ、しよ?」  耳元でそう囁かれながら着ているシャツの上から乳首を指で転がす彼に俺は思わず下唇を噛み締める。くっそ…絶対こうなると思ったから一人で映画を見たかったのに。  確かに結城とは映画の趣味がよく合うし一緒にいて居心地は悪くないが、最終的に彼はこうして俺を求めてくる。おまけに最近は俺もレポートだったり小テストが重なったりしていたから誰かとセックスするのは久々だ。もちろん自慰だってする余裕がなかった。  断ろうと胸を弄る彼の手に手を当てるも咄嗟に盛り上がっていた下半身を触れられてしまえばもう何も言えなくなる。  「やっぱり、みーちゃんもしたかったんだね。」  *  ベッドで寝かされながら俺の陰茎を咥える結城の顔がやけに綺麗に思えた。長い睫毛、格好良くにセットされた髪を少しクシャ、と握ってやれば結城は少し笑う。  少しザラつく舌で亀頭をペロペロと舐めながら手を動かす彼に俺は思わず声が漏れる。ひとりでするときよりもずっと快感が強いそれは例えるなら甘いお菓子を一気に彼に食べらされているようだ。その甘さに視界がぼやけ、手足が震えてくる。  「ふあ…ゆうき…、気持ちいい、もっと舐めて…」  やはり近頃抜いていなかったからか結城にそうおねだりすると彼は頬を赤く染めながら返事をするように何度も舐めたり吸ったりと繰り返した。強く与えられる快感に思わず立てていた両足をビクビク動かしてしまう。あ、やばい、そろそろイクかもしれない。  いっていいよ、と言ってくれてるのか結城は更に口をすぼめたり手の動きを早くしていき、俺も「あ、出る…出ちゃ…あ、あっ!あ…、あ」と声を上げながら彼の口の中で果てた。出し切ったそれを結城は一滴も零さないように口の中に入れたまま陰茎を引き抜き、それからやけに満足した顔でゴクリと飲み込む。何度も飲み込まなくていいとは言っているが以前、彼が「みーちゃんの精液を飲んで自分の体内にそれがあるっていうだけで最高に興奮するよ。」と言っていたのを思い出した。本当に変態だ。  でもやっぱりなんだか申し訳ないし、それに男の精液なんて苦くて吐き出してしまいそうになることは俺もよく分かっているから彼の頬に手を当ててその唇に自分の唇を重ねた。結城が飲み込んだそれが自分の精液だと分かっていても、彼が嬉しそうに飲み込むものだからなんだかそれが甘くて美味しいモノのように感じる。絡めた舌はやっぱり苦かったがそろそろ感覚が麻痺してきたのか次第にそれが甘いように思えてきた。  「っ結城…、はやく挿れろよ…!」  さっきからお尻を突き出しながらトロトロに慣らされた肛門から挿入されるそれを期待しているというのに、彼は自分の陰茎を何度もそこを当てたり上下に動かしてローションを塗りこむだけで挿れようとしない。焦れったくなって振り返りながら彼にそう言ったが、結城は「うん、ごめんね」と答えた。  「今日のみーちゃん、やらしいからさ…このまま目に焼き付けてからセックスしたいなって。」  「…変態。」  「うん、罵ってくれてもいいよ。みーちゃんが望むなら俺はみーちゃんの犬にもなるし。」  本当に変態じゃないか。それに俺が望むなら犬にもなるって一歩間違えれば犯罪になりそうだ。  でも今は俺も早く彼のが欲しくて堪らないから、お尻を軽く揉んでる彼の手に自分の手を当てながら「…結城が欲しい、」とお願いした。その顔に彼はまた頬を赤く染め、「分かった…挿れるね?」と言ってからようやく陰茎を俺の中にゆっくりと挿入してきたのだ。腸内の壁を押し広げながら奥へ奥へと進んでいくそれを俺は枕をギュッと抱きしめながら受け止める。挿入させる際に亀頭が前立腺を擦れ、思わず口からダラしなく涎が少し垂れた。  「気持ちいい…みーちゃん、あったかくて、狭くて…もう動かしてもい…?」  彼の言葉に俺はコクコク頷き、それから結城は容赦なく中をガンガン突き始める。女のように奥に子宮口というものがないから奥に当たって気持ちいい、というのは分からないが、乱暴に腸内を掻き混ぜたりギリギリまで引き抜かれた亀頭が前立腺を擦ったりする度に失神しそうになるほどの快感が走る。  何よりも俺が気持ちいいと感じるのは、普段こんなにも優しい結城が“男”としての本能だけで腰を振っているということだろう。  もしそこに妊娠するかもというリスクがあればきっともっと気持ちよくなれたかもなぁとは思ってみたものの、この結城なら無理やりにでも妊娠させてきそうで怖い。というか、女の状態で結城のこれをガンガン突かれたらどうなるか怖くて想像したくもない。  シーンと静まり返った部屋の中でローションのクチュクチュという音と彼の肌とぶつかってパンパンと鳴る音だけが響く。なんだか視界の代わりに聴覚までもが犯されている気分だ。こんなにも生々しく本能だけでセックスをしているんだな。  「あっ!ああ、っあ、ゆ、ゆうきぃ、っ!だめ、だめもう、息っ」  確かに気持ちいいけど、そろそろ俺の息が続かない。腰に回された結城の手を掴むも、彼は俺の手をギュッと握り締めながら更に覆いかぶさるように抱きついてきた。彼の右手が俺の勃った陰茎を掴み、何度も手淫をしていく。垂れていたローションがついていたためか、彼の手の中がヌルヌルしていて気持ちいい。  「みーちゃん、好き、好きだよ、大好き、愛してる、」  何度好きという言葉を言えば気が済むんだ、と彼に言ってやりたいが生憎もうその気力すらない。今は口から飛び出てくる喘ぎ声を紡ぐだけで精一杯だ。「ああ、いっちゃう、あ、っいく、結城、やめ、」ここで止められたら困るのは俺なのに、思わず口から飛び出てくるやめての言葉に彼は小さく笑いながら「やだ。」と答えた。  ガブリ、と噛まれる首筋。キスマークが付かないほどの強さで首筋に吸い付いてくる。それを何度も繰り返されながら俺は自分の腕を噛んで大きすぎる快感で頭がブッ飛ばないように必死にこらえた。  ああ、ダメだ。本当にもう我慢の限界。  「いって、みーちゃん」  その言葉が聞こえた途端、俺は耐え切れずに彼の手の中で精液を吐き出し、彼もまた俺の中に精液を吐き出した。  *  あの後、どうやらやっぱり意識が飛んでしまったらしい。  気づいたら横では俺を愛おしそうに見つめながら頭を撫でてくる結城の姿があって、俺が目を開けたことに気づくと頬にチュ、と唇を当ててきた。ああ…そういえばゴム付けてなかったな、とぼんやりと考えることはできたが意識は完全に戻っていない。ほどよく筋肉の付いてる引き締まった結城の腕の中で俺は彼にしがみつき、それから結城、と彼の名前を呼んでみた。  「ん…どうしたの、みーちゃん。今日は甘えてくるね。」  「なに、嫌なの?」  「ううん、嬉しいなぁって。勘違いだとしても、みーちゃんに愛されてる気分になれるよ。」  ふふ、と幸せそうに笑う結城を見て、俺はそっと瞼を閉じた。  「好きだよ、みーちゃん。俺、みーちゃんに言われれば本当に犬にでもなるからね。」  「…そういう趣味ないし、それにそれって結構危ない発言なんだけど。」  さっきからずっと思っていた事をようやく口にすると、結城はそれから嬉しそうにあはは、とまた笑った。

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