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第20話

 暗い話をしてしまったからか、浅葱との重たい空気を変えるべく、一緒にお風呂に入ろうと提案した。せっかくラブホテルに来たんだから少しはこういうのを楽しまなきゃ損だろう。浴衣を脱いでから浴室へ行ってみると照明の明るさや色を変更できるらしく、浴槽もまたネオン色に光るようになっていていかにもラブホという感じだ。  「うわ、すげえ。全部揃ってある。」  風呂にはコンドームからローション、オイル、更には入浴剤も数種類が用意されている。ふと浅葱の方を見ると彼は顔が真っ赤に染まっていて勘弁してくれといった顔を浮かべていた。まあ、初めてラブホに来たらこんな顔するよな、分かる分かる。  「浅葱くん照れてるんですか?」  わざとらしくそう聞けば彼はまた顔を真っ赤にして「美津さん…」と俺の名前を呼ぶ。てか、別にお風呂一緒に入るのが初めてじゃないだろう。せっかくだから泡風呂にしようかな、と入浴剤を入れてシャワーを当てると香りのいい泡がモコモコと出来てきた。  「先に身体洗ってから入る?」  「あ…はい、洗ってからでいいです。」  まだ顔が赤い彼の頬をつねり、それから二人で身体を洗うことにした。洗ってあげるよ、と言ったものの、浅葱は美津さんまだ酔ってるんですか?と聞いてきたため二度と口をきいてやらねえと思った。もちろんそんなの真っ赤な嘘だけど。  浅葱が髪を洗う姿を見つめながら俺も自分の髪を洗うことにする。彼の髪は水に濡れてもかっこいいというか、本当にイケメンは髪型が変わってもイケメンなんだなと思い知った。俺はある程度髪の毛を整えなきゃ割と少し年下に見られてしまうことが多い。童顔という訳ではないとは思うけど。  「あの、美津さん。やっぱりまだ少し酔ってます?」  「…何で?」  「だって、見つめすぎじゃないですか…?」  浅葱よりも先に身体を洗い終えた俺は彼の様子をジーッと見つめていた。まあ、これだけガン見されたら洗いづらいだろうな。けど、やっぱりある程度はまだ酔いが醒めてないのが事実だろう。まだ少しだけ頭がフラフラするし、こうも彼に何度もちょっかいをかけたり困らせてるから違いない。酔った勢いでセックスするのはいけないとは分かっているが、さっき浅葱とベッドでキスしてたときとか普通に勃起してたし、今だって彼に触れて欲しくて堪らない。  「…察しろよ。」  なんだか自分だけがこんな気持ちになっているように思えて少し悲しくて目を逸らす。いくら酔ってるからって彼に絡みすぎてはいけないな、嫌われてしまうかもしれない。先に浴槽に入ってる、と言ってから俺は後ろにある浴槽に足をいれて入ろうとするも、後ろから彼が抱きついてくるから思わず倒れそうになった。  「す、すみません、違うんです。」  本当に恥ずかしくてついあんなこと言ってしまいましたと謝ってくる浅葱。そんなことは知ってるけど、確かに俺もラブホ初体験の相手に対してからかいすぎたと思う。「いいよ。俺こそごめん。」腰に回されてる浅葱の腕に触れてから俺と彼は浴槽から離れて、彼が身体を洗うのを手伝うことにした。浅葱はまだ恥ずかしそうにしていたけど。  ボディーソープを両手で泡立たせながら彼の背中や肩を洗い、脇やら腰も丁寧に洗っていく。何度見ても触れても男らしい筋肉がついた身体だなと思う。特に腹筋なんか俺は人生で一度もくっきりと割れたことがないというのに。「ジムとか通ってんの?」と聞けば彼は「事務所に月に何回かは行けと言われてますので。」と答えてくれた。やっぱりか。けどそう考えたらこいつのスケジュール本当にハードだな。  この間、何気なく立ち寄った本屋で浅葱の載ってる雑誌を見たら特集が組まれてたり、近々写真集出すとか言ってたから本当は今回の花火大会も忙しいスケジュールを調節してくれたんだろう。なんだか途端に申し訳なくなって、同時に自分のためにそこまでやってくれてる彼に俺は抱きついた。  「浅葱、頼むから無理とかはするなよ。」  浅葱は俺の言葉に少し驚いたようだが、直ぐにクスクスと笑って「好きだから無理なんてしてません。」と答えてきた。これだからイケメンは…!お前の顔面と性格がタイプだと分かっている上で言っているんだろうか。  「それに、僕は……」言葉を言いかけた彼はそれから頭を軽く横に振り、なんでもありませんと言った。何か言いかけたことは確かなんだが、浅葱が言うのを躊躇ったのであえて深く気にしないことにする。なんだか今はまだ触れないほうがいいような、そんな気がして。  浅葱の腰に回していた手を下まで向かわせ、少し驚いた彼の陰茎を掴む。美津さん、とまた彼が俺を呼んだ気がするが、俺はなにも聞こえていない振りをしてそのまま手を動かして勃たせる。手の中にある彼のそこは次第に硬さを増していき、息も少しだけ荒くなり始めた。「っ…美津さん、一緒に触りたいです。」振り返った彼がそのままキスしてきて、お互いに舌を絡ませていく。キスしながら互いのを触り、次第に俺の身体も火照り初めてきた。もしここでお預けされたら意地でもなんでも浅葱を押し倒してしまうかもしれない。  一応暖かいお湯をかけてからタイルに腰を落とし、ボディーソープと並んで置かれているローションに手を伸ばして浅葱の手の上に出した。彼はクチュクチュと鳴らしながら両手に馴染ませ、俺も自分の手の上にローションを出してから冷たいそれを温めるように手に馴染ませる。  そういえば、浅葱と明るいところでこういうことするのが初めてだから彼は照れているんだろうか。  そんなことを考えながらも浅葱の勃起している陰茎に手を伸ばし、ヌルヌルと滑る手に力を加えながら動かしていく。浅葱もまた俺のをローションで馴染ませた手で動かしていき、それから軽くチュ、とキスをする。  小さな音でも響く浴室で、ローションのいやらしい音が響いて耳に入る。いつもセックスをするときはこういうローションの音だったり肌がぶつかる音だったりが恥ずかしくて堪らないと感じていた。今でこそ多少はマシだけども。  浅葱は突然、俺の耳たぶをぱくりと咥えるものだから、思わず変に高い声が口から飛び出た。  「…美津さん、気持ちいいですか。」  その声とか耳に少しかかってる息がエロくて、俺は思わず前屈みになって下半身に力を入れる。そもそもこいつ、前戯のつもりで互いに触りあっているというのに何でイかせるつもりで扱いてんの。  思わず浅葱のを握っている手に力が入らなくなるぐらい、余裕が無くなってきて浅葱にもういい、と言うも、彼は手を止めようとしない。浅葱とセックスするようになって分かったことはこいつ、結構俺の弱点を責めるのが好きだなということ。あと、普段の性格と違って少しだけ強引になるということ。  「あ、さぎ…ッもういくから、手ぇ離せって…」  「でも、美津さんのイクところ見たいんです。」  ダメですか、とか聞くな。どうせ手を止めるつもりなんてないくせに。  本当にそろそろ限界が近くて、浅葱のから手を離して思わず後ろに少し身体が倒れるも、彼は俺の顔色ばかり伺って手を止めない。まるで俺がイク姿を目に焼き付けようとしているようにも思えて、少し恥ずかしくて「浅葱」と彼の名前を呼んだ。浅葱にも気持ちよくなって欲しくて彼の腕に手を重ねると、気づいてくれたのか浅葱は更に距離を縮めてから自分の陰茎も一緒に手の中に包んで動かした。  自分のと浅葱のが重なって動かされ、息が荒くなる。ローションで手が滑る俺の背中に腕を回して、「いってください。」と言った彼に俺はとうとう耐え切れずに自分の腹に精液を吐き出した。ピュッピュッと出てくる熱いそれ。後から浅葱もイッて同じように俺の腹に精液を吐き出す。  息を整えながら、ふたり分の精液で汚れた腹をぼんやりと見ていると、浅葱は俺の頬に軽くキスをしてきた。  「…今回は僕がやってみてもいいですか?」  「え…?なにを…?」  「美津さんの中、慣らしたいです。」  快感の余韻でまだ頭が上手く回らず、一瞬何のことか分からなかったが、ようやく彼が何を言いたいのか分かると俺はコクリと頷く。そういえば今まで自分がやってきたんだっけ。  浴槽の縁に手を掛け、お尻を突き出す体勢になると浅葱はまたローションをつけた手で穴の周りを指で軽くなぞる。何故か途端に俺は少し嫌な予感が走ってやっぱり自分でする、なんて言おうとしたが振り返って見えた浅葱の顔がやけに幸せそうだったのでやめておいた。  浅葱の指がゆっくりと中に入り、中を指で少しずつ慣らしていく。やり方はきっとネットかどこかで調べてきたのだろう、それでも痛い思いをするんじゃないかと多少は覚悟していたのに。  「…何で急にやりたいなんて言いだしたの?」  ふと疑問に感じて浅葱に聞くと、彼は「いつも美津さんがやっているので、僕も出来るようになりたかったんです。」と答えた。面倒だと思わないのかとまた聞こうとしたけど、きっと浅葱なら俺が歯痒くなることをまた言ってくるだろう。  「浅葱、そこ…ッん…、」  浅葱に自分の前立腺の場所を教え、彼はそこを指で押したり離したりと刺激を繰り返す。なるべく身体に力を入れないようにしているが、それでも自然と声が漏れてしまう。普段なら自分でするときはやはり自分の身体だからどうやったら痛さを感じることなく効率よく慣らせるのか既に分かっている。  だが、今のようにじっくりと前立腺を刺激されるのにはまだ慣れていないというか、いつもはそこを刺激しながら慣らして自分のを勃起させて、それから挿入に至るという流れだ。こんなにもじっくり刺激されるならいっそ早くチンコ挿れてくれという気分になってしまう。  「可愛い…美津さん、そろそろ大丈夫ですか…?」  もう、いれていいよ。そう浅葱に言うと彼はこくりと頷き、それからコンドームを袋から破って取り出し、自分のにつける。浅葱が自分のにコンドームをつけている間、俺は彼の首筋にキスをした。彼から少しビックリした声が聞こえたが、浅葱が自分の中を慣らしてくれた代わりに俺も少しだけ苦手な騎乗位に挑戦しようと思う。  冷たいタイルに再びお湯をかけてから彼を寝かせ、浅葱の腹の上に跨りながら陰茎を掴む。初めて彼としたときもこんな風に彼を押し倒していたなぁ、なんて少しだけ思い出した。  ゆっくりと腰を落としながら彼のを飲み込み、ようやく根元まで入ると俺も彼も一息つく。  こういう時とか自分が女だったら多少は楽なのにと考えることはあるが、きっと浅葱は男の美津さんが好きなんですとでも言うんだろう。  ゆっくりと腰を動かしながら、相変わらず下手くそだなと改めて思う。少し泣きたくなったが、浅葱はそれこそいつもの優しい顔で見守ってくれているも、その余裕な顔からしてきっと気持ちよさなんてないんだろう。七瀬さんとやった時よりは多少マシになっていると思っていたのに。  「…もう下手って笑えよ。」  浅葱にそう言うも、彼は少し頭を傾げながら「可愛いですよ、美津さん。」と答える。可愛いとかそういうことは聞いてないんだよ。  「美津さんが一生懸命動かしてくれてるの、見ていて幸せです。」  その彼の一言で俺の頬は熱が集まり、うるせえ、なんて言いながらも彼の口にキスをする。クチュクチュとローションを鳴らしながら中を動かし、下手だとかそういうことを気にせずただ動かすことにした。浅葱も少しずつ腰を動かしているようで、彼の亀頭が前立腺を擦ったり当たったりする度に俺は自分の口元を押さえて身体中を巡る快感に耐える。けどそれも直ぐに限界を迎え、とうとう口からは甲高い声が漏れ始めた。  「あ、あぁあ、…ッ、あ、あ…ぅ」  浅葱はそんな俺を見上げながら少し目を細め、腰に両手を当てて本格的に彼も腰を動かす。本当に少しだけ、もしかして彼の余裕を崩してやったのは自分なんじゃないかと自惚れた。  彼の名前を何度も呼びながらアンアンと喘いでいると、浅葱もまた俺の名前を呼ぶ。  このまま果てろということなんだろうか、腰の動きを止めない彼に何かを言おうとするも、浅葱は自分の想像以上に余裕を無くしてしまっていたようで、頬が赤くて額に少し汗が滲んでいる。  「あさ、ぎ、いくっ、いく…ッ、!」  途中から我慢できなくて自分で自分の陰茎を動かしていたが、そろそろ果ててしまいそうになって浅葱を呼ぶ。浅葱はそんな俺に「はい、僕も…っ」と答えると、俺は自分のを握り締めたまま、自分の手の中に精液を吐き出した。  真っ白になる頭の中、浅葱も限界を迎えたようで、脈打ちと共にコンドームに精液を出しているのが何となく伝わる。自分の手の中に吐き出した精液はポタポタ、と浅葱の腰に落ち、乱れる息を整えながら俺も冷たいタイルに手をついた。  騎乗位で相手と最後を迎えたことが無かったが、浅葱が果てたとき、腰を浮かすぐらいに自分の身体を求めているのが最高にいやらしくて、同時に嬉しくて、今は自分の息を整えるのに必死だというのに頭の中は浅葱のことしか浮かばなかった。  *  浅葱と共にもう一度身体を洗ってからずっと放置していた泡風呂にも入り、そして今、ベッドの上で共に寝ている。時刻は朝の5時過ぎを指していて、約2時間近くもセックスをしていたんだな…とぼんやり考えていた。ちらりと浅葱を見てみると、彼はまだ眠っていないのか、俺の腰に腕を回しながらこちらの顔をずっと見つめている。  なんだか急に恥ずかしくなって携帯でも見ようと手を伸ばすと、浅葱は俺の腕に手を伸ばしてそれを止めた。  「…すみません、何でもないです。」  どうしたの、と聞く前に浅葱は伸ばしていた手を戻し、それから俺の背中に頭を埋める。何かあったんだろうか。浅葱の腕を軽く撫でながら「言えよ。」と言ってやると、彼は暫くするとつぶやくように語りだした。  「…あまり、人の携帯とか見るの好きじゃないんですけど…見てしまったんです。」  「何を?」  「……美津さんの元恋人って、七瀬由紀先生なんですか?」  その言葉を聞いて、俺は思わずビクリと身体が震えるほど過剰な反応をしてしまった。それを肯定と受け取った彼は「…メッセージのやり取りをしているの、見てしまいました。」と言ってからすみませんと謝って。何でお前が謝るの、とか言ってやりたいが、俺は「…そうだよ。」と答えた。腰に回されている腕に力が入る。  「お前の好きな作家だから、言うのをずっと躊躇っていた。」  「…お店に来ているあの人も七瀬さん本人ですよね。美津さんの頬、触ってました。」  恐らく先日のことを言っているのだろう、俺はそれに対して隠すことなく素直に頷いた。浅葱は俺から腕を離し、途端に俺は彼の腕を掴んで抱きしめる。腕を離したくせに浅葱は俺を強く抱きしめてそれこそ息苦しくなるほどだ。  「美津さんのこと、誰にも渡したくないです。」  そういった彼に、結局なにも答えられない最低な俺はただその腕に抱かれるしかなかった。

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