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第27話

 眠りから目が覚ますと今度は昼前にはきちんと起きることが出来たが先に起きた結城がご飯を作ってくれていた。  木津や藤谷の時もだけど、最近は周りの人にいろいろと世話をされている気がする。俺ももっとしっかりしなきゃな。  ご飯を食べたあと、結城とテレビ見ながらそういえば今度あの監督の新作映画出るよねといった話をし、それから直ぐにバイトへの時間が迫ってきた。今のバイト続けて数年経つが休日の3時から入ってるシフトはいつも憂鬱だ。できるなら俺も夕方から仕事をしたいのが本音だが、来週からテスト期間に突入するし休みを頂く身なんだから仕方がない。  同じく3時からだという結城と身支度を済ませ、それから共に電車に揺られて再びバイト先の最寄り駅まで向かった。  「美津さん、結城さん、おはようございます。」  「おはよー。」  一足先に着替えてレジでタイムカードを押していたのは昨日共に天文学のことで盛り上がった同僚で、結城の挨拶に続くように俺も「おはよう。」と返した。「ほかの人は?」「まだ来てないんです。昨日みなさん朝まで2軒目、3軒目、カラオケとオールしてたらしいので…。」その言葉を聞いてもう呆れて声すら出ないが、いつも飲み会を開くと必ず2、3人はバイトに遅刻してくる。酷い時だと二日酔いを理由に休む奴もいるから飲み会が嫌いだというのはその点も含まれている。  「結局俺たち以外のみんなオールしてたの?」  結城が彼にそう聞くと、どうやら途中で帰ったのも彼含めて数人いたらしいがほぼ半数、オールしてたらしい。同じく3時からシフトが入っていたのにも関わらずオールをしたメンバーを心の底から軽蔑した瞬間でもあると思う。確かに自分も体調不良や電車の遅れ、台風といったことでバイトを休んだことはあるが、二日酔いで休むことは今までなかった。まあ、俺は別にバイトリーダーじゃないしな、普通のバイトだし店長でもないから文句は言わないけど。  「浅葱くんも朝まで店長に付き合ってましたよ。それなのに今日も何か別の飲み会があるようで。」  「えー、二日連続で飲み会とかすごいね。…ってみーちゃん!待って、俺も着替える!」  まだ会話している二人を放っておくように先にスタッフルームに向かうことにした。後から結城がついてきたが、正直まだイライラしている自分が居る。確かにお前の歓迎会だから主役が一番楽しまなきゃいけないのは分かる。俺もあからさまに意地張って「大丈夫ですか?」と聞かれた際に素っ気ない返事をしてしまったのも悪いと自覚はしている。  でもお前だって俺がイライラしているのはきっと分かっているはずなのに、何でたった一言だけでもメッセージを送ってこないのかに対して腹立った。  俺から送ればいいんだろうけど、少しはお前に気づいて欲しかったよ。俺が怒ってるって。  着替えを済ませてからまだ気持ちが納得していないまま、俺は携帯を取り出すと先週届いた『来るんですか?』のメッセージに少し胸が痛んだ。飲み会に行ってもあいつは俺がいることに対して嬉しい顔なんてしていなかった。当然といえば当然だけど、少し期待していた自分が情けなく感じる。  いざトーク画面を開いたのはいいものの、何を送ればいいのか考えられず、指が止まっていると結城が「みーちゃん、そろそろタイムカード押しに行こう?」と言ってきたため俺は携帯の画面を消してそのままカバンの中に入れてしまった。結局、藤谷と久野瀬どころか浅葱にすらまともに向き合えることが出来ない自分が本当に情けない。  土曜日は一週間の中でも金曜日と並んで特に忙しい日だが、浅葱のことをふと考えては無理やりかき消して、また考えてはかき消してといった繰り返しばかりしていた。バイト終えて帰ったら早く勉強しよう。テスト前だし、何より木津たちに支えられてなんとか先週を無事過ごせたというのに。仮に目の前に浅葱がいるなら暴言の一つでも吐いてやりたいほどには気持ちが不安定だった。  *  「美津くんお疲れ様。」  午前0時。タイムカードを押し終えてほかの従業員たちに挨拶をしていくと目の下にクマが出来てる店長がタイミングよくスタッフルームから出てきた。オールまでしてきちんと夕方から出勤してきたんだから逆にすごい。結果的に今日バイト入っていながらも飲み会オールをした全員は生気のない顔できちんと出勤してきた。  「お疲れ様です。店長、帰ったらちゃんと寝てくださいね。」  金曜の俺と同じ状態の店長にそう言うと彼は感動した顔で「うん、うん、ありがとう美津くん。」と言ってくる。いや、ちょっと心配しただけで何でそんな泣きそうな顔をしているんだ。それから店長にもう一度お疲れ様ですと挨拶をしてからスタッフルームに入り、それから息をつきながら私服に着替えることにした。黒い画面のままの携帯をつける気にもなれず、私服に着替えてからまかないを食べ、一口食べたところできちんと向き合わなきゃ状況は変わらないと自分に言い聞かせる。  本当は出来ることなら帰って寝て、翌日になるまで携帯を見たくないが浅葱とこのまま離れると考えると早めに何か自分から行動を起こしたほうがいいという結論を出した。  つけた画面には浅葱からの着信が30分前に1回、10分前に1回入っており、彼が電話をかけてきたことに俺は慌ててロック画面を解除してから浅葱に電話をかけ直す。浅葱が電話をかけてきた、それだけでも心臓がうるさく動き始めた。  数回の呼び出し音のあと、聞こえてきた賑やかな音に「もしもし、浅葱?」と少し震えた声で聞くと、向こうから聞こえてきたのは浅葱とは別の声だった。  『もしもし。あ、あの、美津さんですか。』  聞き慣れない男の声に少し眉を寄せながらも「…はい、どちら様ですか。」と聞けば声の主は慌てたように『今、浅葱を迎えに来れますか?』と言ってきた。浅葱を迎えに?『俺、同じ大学のクラスメイトの久坂です。』久坂(くさか)と名乗った男は俺に何が起きたのか話してくれた。  ほかの従業員に目もくれず、「みーちゃん」と呼んでくる結城の声も耳に入らないほど俺は慌てて店を出る。久坂が言うにはどうやら浅葱は今日の飲み会に来たのはいいものの、30分ほど前に潰れてしまったらしい。ほかの女の子が家に連れ帰って介抱しようとしたところをやんわりと断って浅葱の知り合いを探した結果、俺に電話をかけてきたとのことだ。浅葱の携帯でずっと連絡取るのも悪いということで久坂に連絡先を教え、それから送られてきた彼がいる店の場所までタクシーで向かう。  浅葱が潰れるって、相当無茶したに違いない。さっきまで浅葱からの連絡で舞い上がっていたのとは別の意味で心臓がうるさく動き始めた。  タクシーが店の前に着くと俺は直ぐ店内に入り、それから店員に案内されて浅葱たちがいる席に向かう。見えてきたのは男6人と女6人が向かい合わせに座っている個室で、中に入るとテーブルに頭を預けている浅葱の横には心配そうにしている男が1人、女の子が1人座っていた。「あ、美津さん。」俺の顔を見た男は席を立ち上がったが、俺は直ぐに浅葱の席に近づく。  「電話していた久坂です。ほら浅葱、美津さん来たよ。」  久坂は浅葱の背中に手を載せて軽く揺さぶると、目を覚ましたのか浅葱は俺を見るなり「美津さん…?」と頭を傾げた。とりあえず意識あるだけでも良かったと思う。俺は浅葱に近づいて彼の席の近くで「浅葱、立てる?」と聞くと彼は「美津さん」ともう一度俺を呼びながら抱きしめてきた。  椅子から崩れるように抱きついてきた彼に当然ながら俺は受け止めることが出来ずに一緒に床に膝をつくハメになったが、こうも酔っ払っている彼に人前で抱きつくなとか重たいとか言えるはずがない。浅葱の肩越しで久坂に「浅葱の荷物は?」と聞くと彼は財布と携帯といったものを「これです。」と言って俺の手に握らせてきた。それを自分のカバンの中に入れ、久坂と共に浅葱の身体を支える。  横に座っていた女の子が久坂に「何でお迎え呼んだの。」と不満そうな顔をしていたが逆にお前がどうやって浅葱を家まで連れて帰れるのかが聞きたい。久坂と二人で浅葱の身体を支えながら店を後にし、近くに停まってるタクシーの後部座席に浅葱を寝かせた。  ここに向かってくる最中、運転手に事情を話すと近くで車停めて待ってますよと言ってくれたのだ。ここは大通りに出るまでタクシーなんかは滅多に通らないから本当にありがたい。  「浅葱のことよろしくお願いします。隣にいながらも止めることができなくてすみません…。」  久坂はそう言うと俺の頭を下げてきたが、別に浅葱が潰れたのは久坂だけが原因じゃないだろうから俺は慌てて彼の頭を上げさせた。「むしろ連絡を下さってありがとうございました。料金とかは…?」「いえ、事前に飲み代は集めてあるので大丈夫です。」それならよかった。もう一度浅葱に目を向け、早く帰って彼を楽にさせようと思った俺は久坂に軽く頭を下げてから「ではまた。」とタクシーに乗り込む。  ドアが閉まる前、久坂はもう一度「浅葱のことよろしくお願いします。」と言ったが、それに返事をする前に車は走り出してしまったのだ。  走り始めて20分経つとタクシーは俺の家に着いた。本当に親切な運転手で、一度車を止めると俺が浅葱を支えれるようにわざわざ車から降りて共に浅葱を起こしてくれたのだ。運転手に何度も礼を伝え、それから浅葱を家へと連れて行く。俺と浅葱の体格差を考えるといくら同じ男とはいえやはり二人で支える時と違ってスムーズに行かない。  靴を脱がせ、ドアを閉めてからなんとか浅葱を家のベッドまで寝かすことができたが、その時には既に息が乱れていて額にも汗が滲んだ。疲れた、本当に疲れた。久しぶりに運動をした気分だ。  浅葱が寝苦しくないようにシャツとズボンを脱がせ、下着一枚になった彼に布団をかける。いま彼が起きたら完璧に事後って思われそうだな。  七瀬さんの前職がホストだったため、何かと酔っ払いの扱いや服の脱がせ方は身体に染み付いている。今回は少しだけその経験に助けられたなと思った。  彼が起きた時のことも考えて近くのコンビニへ向かい、ミネラルウォーターと栄養ドリンクを何本かを買い、それから再び我が家へと戻る。熟睡しているだろうし、ある程度物音立てても大丈夫か。あまり気にせずにドアを閉めてからリビングに向かい、ミネラルウォーター、栄養ドリンクをそれぞれ1本取って残りは冷蔵庫の中で冷やすことにする。  あいつが起きたら味噌汁作ってやらないと。それにもしものときを考えてゴミ箱も用意しよう。  あれとこれをして、と頭の中で何をするか考えていると寝ていると思った浅葱は意外にも起きたようでぼんやりとしながらベッドの上に座っていた。  「…浅葱?」  起きたのか?と聞きながら彼の横にそれぞれのものを置いて顔色を伺うと浅葱は突然俺の手を引っ張ってベッドへと倒れさせる。柔らかい布団の上ということもあって痛みはないが、上に乗っかってきた浅葱に俺は思わず抵抗して離れろと押し返した。けど彼には効かないようだ。  「…美津さん、美津さん。」  何度も俺の名前を繰り返して呼ぶ浅葱。俺も抵抗するのをやめて「…何?」と胸にある彼の頭に腕を回して抱きしめた。いつもの彼の香りに違う女の香りがしたが気にしない振りをする。  「僕、ダメなんです。美津さんがいなきゃ、本当に…」  浅葱は肩を震わせながら泣き出した。泣いてる浅葱を見るのはこれで二回目だが、ラブホの時と違って少し泣き声が口から漏れている。浅葱がこんなに泣いてる姿は想像できなくて、それも自分を想って泣いているからだろうか自然と俺も釣られて涙が滲む。  「うん、分かってるよ。」  そう言ったものの、浅葱は「分かってない!」と珍しく声を荒らげた。その声に驚かされたものの、浅葱は「美津さんは何も分かってません。」と繰り返すものだから「何で?」と聞き返す。「何で俺は何もわかってないって思ってるの?」俺の質問を聞いた浅葱は涙で一度言葉に詰まったが、その後になんとか絞り出した震えた声で「…辛かったんです。」と答えてくれた。  「美津さんが僕以外の人と会うのは最初から仕方ないと割り切ってました。…でも、嘘をつかれるのが辛かったんです。」  * 浅葱目線  美津さんとラブホに泊まったその日の夜。彼と共に一度僕の家に戻って再び眠りについたが、起きてから美津さんは一度家に戻って私服に着替えたいと言った。本当は自分の服を貸してあげたいところだが、家も近いことだし、取りに行ったほうが何かといいだろうと思ってそのまま頷いた。  彼が家を出たあと直ぐに簡単で直ぐに食べられるような料理を作ることにした。予想よりも早く出来上がった料理は美津さんが家を出てから20分経った頃にはほぼ出来上がり、出来上がった料理をお皿に盛り付けていく途中でふと彼の帰りが遅いことに気づく。携帯を取り出して電話をかけようとしたが、彼から届いた『ごめん、ちょっと事情が出来て時間かかりそう。』というメッセージに一度は安心したがよく見るとそのメッセージが届いたのは15分前のものだ。  事情って何だろう。電話を一回かけてみたが出てくれない。万が一のことも考えてこれは家に直接向かった方がいいかもしれないという結論を出した僕はまだ煮込んでいる鍋の火を止めてそれから鍵と携帯のみを手にしてそのまま美津さんのマンションへと向かうことにした。  彼のマンションのエレベーターに乗り、どうか自分が心配性なだけであってほしいとただ願っていたが、どうやらその心配は当たってしまったようだ。  「また明日バイトでね。」  そう笑いながら手を振って美津さんの部屋を後にした人物は他ならない同じバイト先の先輩の結城さんで、エレベーターに向かって歩きだした彼と直ぐに目が合ってしまう。やばい、どうしよう。確かに自分は美津さんと結城さんの関係を知っているが、果たして彼は僕と美津さんの関係を知っているんだろうか。どうしてみーちゃんの家にいるのと聞かれたら…そう冷や汗を流しながら必死に言い訳を考えていたが、結城さんは口元に笑みを浮かべた。  美津さんに向けている笑顔とは全く別の笑顔。  「早く返してよね、みーちゃんのこと。」  「……はい…?」  息が詰まりそうだった。彼のその言葉の意味ってつまり僕と彼の関係を元から知っていたということだろうか。何か言い訳を、と考える必要も無くなった僕は「それってどういう意味ですか。」と彼に聞いてみるも、結城さんは言葉に答えず、「何でみーちゃんもよりにもよって浅葱なんかを選ぶのかな。どう考えても俺のほうがみーちゃんに似合ってるのに。」と目の前で言ってきた。  確かに結城さんは美津さんの前だと異様なぐらいキャラを作っていることは知っていたが、これはあまりにも差が大きすぎる。バイトでも見ないぐらい不機嫌な彼の顔になんだか言われ放題の自分にも少し腹が立つ。  「バイトでも元からお前とは合わないって思ってたんだよね。藤谷ぐらいならまだお友達になれたかもしれないけど。」  お前みたいな奴は元から嫌いだよ、みーちゃんに気に入られようとしているところなんか特に大嫌い。  そう言って肩をぶつけながら横を通り過ぎようとした結城さんに僕は彼の肩を掴んで引き止めた。結城さんが僕のことを勝手に敵対視したり嫌うのは別に構わないが、『俺のほうがみーちゃんに似合ってるのに。』という言葉を無視できるほど自分は大人じゃない。結城さんの方が美津さんに似合う?何言ってんの、美津さんに関係を迫ったのはあなた本人だというのに。  「最初美津さんにはそういう対象として見てもらえなかったくせに何言ってるんですか。」  そもそもあなたなんかがいなければ美津さんは、と言葉を続かせようとしたが、結城さんはポケットの中に入れてあったものを取り出してそれを僕に見せる。キラリと光ったそれに思わず目を見開いてしまった。何で?何でソレを結城さんが持ってんの?  「確かにみーちゃんも最初は俺のこと好きじゃなかったと思うよ。けど、好きで信頼してなきゃ“家の鍵”は渡さないでしょ。」  確かに美津さんから一度も家の鍵を渡されたことはない。別に家の鍵が欲しいんじゃなくて、ある程度僕は他の人と違って彼からの信頼は得ているとは思っていた。だから美津さんが結城さんと会ったり藤谷さんと会ったりしてもどこか自分は彼らよりも優位に立っているからと安心していたのだ。  僕が言葉を失っていると結城さんはエレベーターに乗り、そのまま1階へと向かったが、暫くその場から動けなかった。  何事もなかったかのように家に戻り、ショックのあまり呆然としているといつの間に戻ってきたのか美津さんが不安そうな顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。どうしよう、今はその不安な顔ですら作り物なんじゃないかと疑ってしまうぐらいには心が歪んでいる。それでも彼に気づかれないように「おかえりなさい。」となるべくいつも通り接することにした。  「遅れてごめん、ちょっと友達が家まで来てて話とか聞いてたから…」  その言葉を聞くまでは。  友達?友達じゃないでしょ、結城さんと会ってたんですよね。結城さんとは友達なんて関係じゃないのにどうして嘘をつくんですか。もしここで彼が素直に実は結城と会っていたと打ち明けてくれていたら僕もここまでショックを受けなかったんだろう。  「そうだったんですね。」  自分でも驚くぐらい素っ気ない態度を取ってしまい、慌てて作り笑顔を浮かべるが美津さんはやはり鋭い。直ぐにそれがおかしいことに気づいたようで彼が何か聞いてくる前に僕は「早くご飯食べましょう。」と言って逃げることにしたのだ。彼と、向き合えなかった。  それから自分から彼に連絡を送らず、美津さんの方から何か届いたら返そうと思っていたが、連絡らしい連絡は一度も来ない。  思えばそうだ、いつも自分から連絡を送ってから彼からの返事が初めてくる。あれ、最初からこの恋って一方通行だったのか。  最初から遠くで見ているだけで良かったんだ。ただ一度触れてしまったから、ついつい彼の優しさにまた触れたくなってしまう。  自分なりに努力した方だと思っている。  本当は嫉妬深いのに彼が他の人と会ったりするのも許しているし、美津さんと釣り合う人になりたくて背伸びもたくさんした。それに彼が望むことは全てに対して向き合ってきたつもりだ。いつか彼が自分だけを見てくれるはずと夢見て。  けど、この先あとどれぐらい努力すればいいのか今回の件で分からなくなってしまった。  結局、彼の心は最初から自分に向けられていないのだ。情けないことに勘違いしてしまった僕が勝手に舞い上がっていたそれだけで。  そう考えれば考えるほど虚しくなり、僕は初めてこの恋を終わらせようと思ったのだ。

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