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第28話

 浅葱が全てを話した後、彼は俺の胸にしがみつくように泣いていた。  「だからもう美津さんとは別れたいんです。」そう言った彼の言葉が俺の中で何度もエコーがかかったかのように繰り返される。浅葱が俺と別れたい…?俺だって確かにもし浅葱が別れを告げてきたらと考えたことは幾度かあったが、まさかこうも突然それが訪れるとは思ってもいなかった。そうだな、普通に考えればこんな奴とは早く縁を切った方がいいか。  ずっと前からこんな日が来ることは覚悟していたというのに、七瀬さんもお前もどうして俺がそういうことを考えていない時に限って別れを告げてくるんだろうか。  「……今までごめんな、浅葱。辛い思いばかりさせて、気付けなくてごめん。」  お前の言う通り俺は誰と会っていたのか無意識で嘘をついてしまうし、改善したいと言っても結局は人間関係もぐちゃぐちゃのままだ。むしろ悪くなっている気もする。こんな良い所なんて一つもない俺と付き合うなんかより別の人と付き合ったほうが彼にとって幸せだろう。  正直俺は今でも夢なんじゃないかと思っているんだよ。お前みたいな純粋な人が俺を好きになるって何かの間違いじゃないかと。お前が俺のためにたくさん我慢して、たくさん努力しているのは俺にもきちんと伝わっていた。だから俺もそれに応えようとしていたが、どうやらお前よりずっと俺の方が子供だったようだ。こんな意味のない意地なんか張らずにきちんと向き合っていれば少しはまた違っていた今の時間を過ごしていたんだろうか。  「俺はお前のこと本当に好きだったよ。それこそ七瀬さんのことを忘れてお前と一緒になりたいぐらいには好きだった。」  好きだったから、お前と向き合うことを避けてしまっていた。浅葱だから俺が怒っていることにも気づいてくれるだろうと慢心していた。今更後悔してももう遅いが、これは仕方のないことだと自分に言い聞かせる。まだ胸の上で頭を埋めていた彼の顔をそっと上げさせ、涙でグシャグシャになった彼の髪を整えた。腹立つぐらいにタイプの顔は今でも惹かれてしまう。  「まだ酔いもあるだろうから、今日は寝てろ。寝て、俺のこと忘れて、起きたらもう自分の家に帰れよ。」  彼から離れるように身体を起こし、多分二度と言えないだろう「おやすみ」を一度だけ口にしてから俺は部屋を出ようとした。この部屋を出たら、もう二度と彼には会わない。つい数ヶ月前の赤の他人に戻るだけだ。別に七瀬さんのように3年も共に過ごしていた訳ではないし、共に住んでもいないから引越しどうしようなんて心配もない。  ただ、たった数ヶ月の関係でも俺は本気だった。  浅葱から目を逸らして直ぐ溢れてきた涙が頬を伝い、それを右手で拭ってからドアノブに手をかけたその時。  「美津さん」と俺を呼びながら浅葱は俺の手に触れてきた。  その手を振り払い、「触んな」と言ってから再び部屋を出ようとしたところで彼は再び俺の手を掴んだ。「離せよ、離せって。」ブルブルと震えている手で振りほどこうとしても彼が強く握っているそこは一向に外れる気配がしない。諦めた俺は泣いているのを隠すように顔を俯かせて「…離してくれって。」と情けない声を出した。  七瀬さんに別れようと告げられたとき、分かっていたとはいえショックのあまり泣くことが出来なかった。初めて泣いたのは全ての引越しを済ませた後のことだ。一人になった途端に彼はもういないと気づいて子供のように声を上げて泣いてしまったのを覚えている。  共に住んでいた七瀬さんにも俺はあまり泣いている姿を見せたくなかった。まるで俺だけが彼のことを好きだったみたいで辛かったから。  浅葱はそっと俺の頬に手を触れ、「僕の話を最後まで聞いてくれませんか」と言ってきた。聞いたところでどうするの。お前はもう俺と別れるのに。  「嫌だ、もうお前の顔なんか見たくもないし話も聞きたくない。」  「ダメです。聞いてください。」  普段のお前は俺が嫌がることなんか絶対にしない奴だというのにどうして今日に限って違うんだよ。浅葱は俺の手を強く握りながらも別の手では優しく涙を拭う。その優しい手つきにもまた情けないことにドキドキしてしまう自分がいた。  「僕は、今も美津さんが好きです。」  さっきの美津さんの言葉を聞いて尚更諦めることが出来なくなりました。  そう言った彼に俺は自分に出せる精一杯の力で浅葱をベッドに押し倒した。彼が俺の手を強く握っていたため、必然と俺もそのまま彼の上に乗る形で共に倒れる。恐らく彼が酔いでフラフラしていなかったらビクともしなかっただろう。  「お前も、七瀬さんも、結局は同じだ。本当に殺してやりたいぐらいに憎い。」  人を散々突き放しておいて、そのくせしてまだ俺に「好き」とか「愛してる」とかそういった言葉をかける。本当はもう俺のことなんか嫌いなのに、俺がその言葉を聞いて胸を躍らせているのを陰で馬鹿にしているんだろう。何必死になってるのって笑っているんだろう。  「人の心の奥底まで入ってきたくせに…なんてない顔して離れていって。…もう散々だ。お前のその言葉も、表情だって本当は全部偽ってるくせに。」  浅葱の喉に手を向かわせ、震えながらそこを軽く握る。このまま力を込めてしまえば、そう考えたときにふと浅葱と目が合い、彼のその落ち着いた目に思わず動きを止めてしまった。  「美津さんが望むなら殺してくれてもいいです。でも、いま美津さんの目の前にいるのは七瀬さんではなく僕です。」  浅葱のその言葉に俺は思わず下唇を強く噛み締め、手に力を込めようとしたもののそこは次第に力が抜けていってしまう。何やってるんだろう、俺。彼を殺したって、結局何も変わらないじゃないか。浅葱の首元から手を離すと浅葱は身体を起こし、俺と向かい合わせになると力の入らない手をそっと握ってくれた。  「僕が美津さんとの関係を終わらせようと考えたのは事実です。昨日の飲み会に美津さんが参加して、結城さんと二人で帰った時にもうこれで終わりにしようと思いました。…でも、僕の中で天秤にかけたんです。美津さんのことが好きだという想いと信頼されていなかった悲しみを。どっちが重たかったか、最初から決まってました。」  浅葱は俺の涙をもう一度指で拭い、それと同時に彼の瞳からは涙が流れ始める。  「信頼されなかったぐらいで直ぐ嫌いになれるほど僕の4年間の片思いは軽くなかったようです。」  結局僕は美津さんのことが誰よりも好きなんですよ。  そう言った浅葱の瞳からは涙が幾度も流れ、笑みを浮かべているがその口元は少し震えている。自然と俺は手を彼の両頬に向かわせ、その涙を拭う。信じてもいいんだろうか。お前のその言葉に。浅葱は俺の手を拒むことなく嬉しそうな顔を向ける。  「……美津さんは僕のことまだ好きですか。」  そんな質問を聞いてくるなんてお前は本当に酷なやつだな。そう思いながらも最初から答えが決まっていた俺は「…好きだよ。」と答えた。浅葱は一度笑いながらも自分の涙を拭い、それから両腕を軽く広げる。  「じゃあ、美津さんから抱きしめて来てください。」  それで仲直りしましょうって、小学生か。  けどそう突っ込むことが出来ない俺は彼の肩に頭を乗せ、ギュッと腕に力を込めて抱きつく。浅葱も俺の背中に腕を回して少し息苦しいほどに強く抱きしめてきた。もう二度と触れられないと思っていた体温が身体を包む。  「…いいの?お前と七瀬さんを被せてしまって、酷いこともたくさん言ったのに。」  「悔しいですけど、それだけ七瀬さんは美津さんにとって忘れられない人となっているんでしょう。でも、その七瀬さんと僕を被らせてしまうほど、僕も美津さんの中で大きな存在になっていることの方が嬉しかったんですよ。」  変わってる奴だな、と思わず言いそうになってしまったが、俺はもう一度浅葱の身体にしがみつくように腕に力を込めた。  もう、お互いに変な意地を張り合うのはやめよう。そう彼と約束を交わした。  浅葱と仲直りしたのはいいものの、まだ酔ってフラフラな彼は俺を抱きしめたまま押し倒してきた。それに対して俺は彼を押しのけてから「ばか、早く寝ろ。」と言ってきちんと枕に頭をのせてやる。「水と栄養ドリンク置いたし、気持ち悪くなったらゴミ箱使ってくれていいから。」浅葱は俺の言葉に申し訳なさそうにすみませんと言った。それから彼が眠るのを見守るようにその頭を撫でると、ふと俺の腕を掴んだ浅葱は「一緒に寝ますよね?」と聞いてくる。さっき時間を見たら午前2時半を指していて本当は勉強しようと思ったが少し眠気が出てきた。  「そうだな…俺も寝るわ。」  というかさっきは気が動転していたこともあってあまり気にしていなかったけど、そういえばお前は下着一枚だったな、と浅葱に言えば彼は今気づいたのか「え!?」と驚いている。どこのメロスだよと思わず笑ってしまった。  本当は帰ってからもう一度風呂に入りたかったが、朝起きてから入ることに決めた俺はそのまま部屋着に着替えてからベッドで彼の横に寝転んだ。  「…美津さん、すみません。今日合コン行ってました。」  「知ってるよ。」  浅葱を迎えに行ったとき、そもそも普通の飲み会じゃない様子はなんとなく察していた。もちろんそれは彼が起きてから改めて聞こうと思っていたことだが、きっと彼は今すぐ謝りたいと思ったのだろう。けど俺は浅葱に「とりあえずもう寝て、詳しいことは明日聞くから。」と言ってやったが、浅葱は身体をこちらに向けてジッと見つめてきている。全く寝る気配がしない。  「キスしてください、美津さん。」  お前はいつになったら寝てくれるんだ。そう思った俺は仕方ないと思いながらも少し身体を起こして浅葱にキスしてやると、彼はそれを待っていたのか俺の後頭部に手を回しながら舌を入れてきた。俺的にはそれこそ軽いキスで済むと思っていたが、この様子だと違うらしい。というか、待て待て。なに押し倒してんの?  なんとか浅葱の口と離れ、「お前、なにして…」と聞けば彼は俺の首筋にチュッ、と軽く吸い付く。  「仲直りのエッチがしたいです。」  それを聞いた俺は思わず抵抗する手を止めてしまったが、浅葱はそのまま俺の股間へと手を伸ばし、それを止めさせようとするも先に彼がそこに触れてしまったものだから俺の抵抗は意味がなかった。いつもはセックスとかエッチとかそういう言葉を言うだけでも死ぬほど恥ずかしがるお前が何言ってんの?というか酔ってるのに何してんのこいつ。  「浅葱、やめろって。今日は…ッ、」  「美津さん、昨日結城さんと一緒に帰ったんですか?セックスはしました?」  何でそれを聞いてくんの。本当ははぐらかしたいが、さっきお互いに向き合おうと言ったことを思い出した俺は「…帰ったけど、してない。」と答えた。浅葱は何故か嬉しそうな顔で「じゃあ暫く抜いてなかったんですね。直ぐ勃起してきました。」と言ってくる。本当、お前がシラフだったら二発ぐらい殴ってた。  「僕の手で興奮する美津さんが可愛いです。…可愛い、好き。」  そう言いながら俺の耳を舌で舐め、ぬるぬるとした生暖かいそれが耳の中に入ってきて思わず「ふあ、」と高い声を上げる。慌てて浅葱の頭から離れて「お前何してんの、いつもこんなことしないじゃん。」と言ってやった。浅葱はそれでも懲りずに俺の体を押さえては耳を何度も舐め、その音や吐息が一番近くで聞こえるものだから少し泣きそうになる。  「あ、浅葱、待って…、うう、」  今まで感じたことない違う快感が怖いのか少し涙が溢れ、それを何度も拭う。浅葱はそれでも止めずに耳を責めながらズボン越しで触れてくるものだから情けないことに少し射精してしまいそうになった。  「…まだいっちゃだめですよ。我慢してください、ね?」  いつもなら我慢せずにイッてくださいとか言うのに今日に限って浅葱は俺の耳元でそう囁く。耳は弱くないと勝手に思っていたがどうやらいつの間にかそこは弱点に変わってしまったらしい。浅葱の少し低めの声と吐息が耳にかかる度に思わず腰を浮かしてしまいそうになる。  やっぱりもしかすると俺はMなのかもしれない。我慢しろと言われて素直に少し腰を浮かしながらも力を入れて射精を我慢する。浅葱はそんな俺を見てよしよしと頭を撫でながら「よく出来ました。」と言ってきた。いつもなら死ねとかやめろとか暴言を二つぐらい吐いてしまうのに。  「あ…ッ、待て、浅葱、まだきちんと慣らしてない」  引き出しにあるローションを使い、浅葱は俺の中を慣らしてくれていたがまだ彼の陰茎を受け入れるほど慣らしていない。浅葱は既に服を脱いでいて見えるその興奮しきった陰茎にお預けを言い渡すのは正直俺もあまりいい気がしなかった。けど今の状態で挿れてきたら確実に裂けるし何かと純粋すぎる浅葱は二度とセックスをしてくれないのかもしれない。  けど浅葱はきちんと俺の言うことを聞いて「…すみません、我慢できなくてつい急いじゃいました。」と謝りながら抱きしめてきた。下腹部に彼の勃起したそれがギュッと押し付けられているような気がしたがそれぐらい彼も辛い状態なんだろう。  「直ぐ慣らすから」と言って俺は彼を押し倒す形で四つん這いになり、自分の手を使ってなるべく早く慣らすことにした。その間に浅葱はコンドームを付け、一度目線が合うとそのまま軽くキスを交わす。浅葱は普段見せないふにゃ、という効果音が似合いそうな優しくてどこか幼い笑みを浮かべた。何だ、お前。  「…美津さん、可愛いなぁ。」  「お前がだよ。この酔っ払い。」  ガブリと彼の首筋を軽く噛んでやると浅葱は「食べられちゃいました」なんて笑いながら言った。彼を迎えに行った時も思ったけど、浅葱ってもしかして酔ったらベタベタするタイプなんだろうか。出迎えて早々に抱きしめてきたり、タクシーに乗っている時も俺が横に座っているのが分かると一度起きたかと思えば俺の太ももに頭を乗せてもう一度寝始めたり。そもそも俺のほうが彼よりもずっと酒が弱いから浅葱が酔ったところなんて見たことがない。  ていうか、酔ってるということは翌日起きたらさっき喧嘩したこととか全部忘れてるんじゃないんだろうな?  そう思って彼の顔をもう一度見てみたが浅葱は目が合うとまた微笑んだ。可愛いから許そうかなとか思ってしまったが絶対に許しちゃダメだ。  「もういいよ。」  自分の中から指を引き抜き、指をティッシュで拭き取りながら浅葱にそう言うと彼は俺の腰に腕を回して一度抱きしめてからそのままベッドに寝かせてくれた。浅葱の好きなようにさせようと彼が挿入する様子を見ずに顔を横に向けて少しドキドキとする胸を押さえる。暫くするとローションの滑りと共にゴムに包まれた彼のそれがゆっくりと入ってきて、俺は思わず口から吐息が漏れた。  「美津さん…」  好き、ともう一度甘い言葉を言いながら浅葱は上体を支えていた腕の肘を曲げて身体を密着させる。抱きしめられている時と同じぐらいの暖かい体温に浅葱の身体にしがみつくと彼はゆっくりと動かし始めた。どうしよう、とても幸せだ。さっきの喧嘩では二度とこうして浅葱のこの暖かさや優しさを感じることが出来ないんだと思ったのに。今は彼がこんなにも近くにいる。彼の見えていないところで俺はまた涙を零してしまった。  うつ伏せで枕に頭を埋めながら口から高い声を漏らす。  浅葱は後ろから俺に抱きつくように身体を密着させながら腰を振っていた。「美津さんバック好きですよね。」と言われたが、いわゆる寝バックのこの体位は苦手だったりする。騎乗位のように腰の振り方がよく分からないから苦手ではなく、この体位だとバックのときよりも前立腺がよく当たって直ぐ果ててしまうのだ。事実、今も浅葱の硬い亀頭がそこに当たったり擦れる度に俺は枕に顔を埋めては指を噛んでしまうぐらいに気持ちいい。  浅葱は「指、噛まないで」と直ぐにやめさせたが、それならこの体位はやめてほしい。もちろんそんな事は言えないけど。  「ッ、あ、!?」  密着していた身体が離れ、少し振り返って浅葱の様子を見ようとすると浅葱は最初から俺が前立腺を攻められて気持ちよくなっていることを知っていたのか今度はそこをググッと亀頭で押し付けてきた。目の前がチカチカし、腰の横にある浅葱の腕を掴んで抵抗してみると浅葱は一度押し付けるのを止めてくれた。別に激しくピストンされた訳じゃないのに、それと同等かそれ以上の気持ちよさに身体が、頭がおかしくなりそうだ。  ある程度息が整ったところで浅葱はもう一度押し付けてきて、「それだめっ、」という自分でも驚くぐらいの情けない声が飛び出た。快感に溺れているようなそんな声だ。  「でも美津さん好きですよね。ここに当たるの気持いいんでしょ。」  やはり浅葱は最初から分かっていたらしい。故意的に何度もそこを攻め、思わず俺はそこそこの力で彼を押しのけて快感から逃げようとするも、浅葱が俺の肩や腕を掴んで押さえるものだからそれが出来ない。というか、いくらMかもっていう自覚があるとはいえ、本気で抵抗出来ない俺も俺でなんだか嫌になる。けど、浅葱に嫌われる方がもっと嫌だった。  「だめ、浅葱…ッあ、さぎ、それ怖い」  怖いとか言ったくせにアンアンと声が漏れてしまうのを浅葱は何故か嬉しそうに笑い、これは抵抗してもやめてもらえないと悟った俺は枕に顔を埋めて必死に声を抑える。それでもビッチみたいな情けない声が漏れるものだからまた指を噛もうと右手の人差し指を口元に運ぶと浅葱はそれよりも先に俺の口に手を当てた。  え、なに。今度は窒息プレイ?  しかし浅葱の指はそのまま俺の口の中に入り、必然と開かれた口からは声が漏れ出た。  「噛むなら僕の指を噛んでください。」  そんなこと言われたら噛めないじゃないか、と思ったが、浅葱がまたズンと腰を打ち付けてくるものだから思わず「ふあっ」と声を上げながらガブリと噛み付いてしまった。やばい、さっき噛んでしまったせいで切れたかもしれない。口の中にじわりと広がる血の味に慌てて彼の指を離そうとするも浅葱は許してくれない。浅葱の指を噛まないように意識すると今度は声を我慢することが出来ず小さな快感でも直ぐに喘いでしまうようになった。  もう指を噛もうとせず、声も抑えることが出来ない俺を浅葱は満足そうに見つめ、指を離してくれたかと思えば今度はキスをしてくる。バカ、まだ口の中にはお前の血があるというのに。  「んんっ、ん、ん、」  浅葱、と彼の腕に手を乗せてギュッと掴む。やばい、そろそろイッてしまいそう。  彼はそれを分かってくれたのか、キスをしていた唇を離し、それから「もうイッていいですよ、美津さん。」と言ってくれたのだ。  「美津さんがたくさん感じてくれたから、僕もイキそうです。」  浅葱はラストスパートをかけるかのようにまた腰を打ち付けて、更に手が俺の腰と布団の上に敷いたタオルの間に滑り込んで陰茎を掴んできた。やばい、両方責められるとどうしていいのか分からなくなる。俺は浅葱の腕をもう一度強く掴みながら彼の名前を何度も呼んだ。  「あさぎ、いく、ッいく!」  その宣言通り、俺はそのままシーツの上に敷いたタオルの上に精液を吐き出し、浅葱もまたゴム越しに同じものを吐き出しているのが分かった。ぼんやりとした頭で浅葱が今どんな顔をしているのかは分からないが、浅葱がそっと俺の手を握ってくれたから俺は安心してそのまま眠りにつくことにする。  後片付けとか浅葱に任せていいのかな、けど彼も酔っ払っているし起きたら俺がしよう。  今はこの幸福感を感じながら眠りにつきたくて仕方が無かった。

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