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第4話

それからよく、凪沙は時雨の家に行くようになった。 本を借りたり、勉強をしたり。ここにいれば必ず誰かがいて、それだけで異常なほど心地がよかった。 時雨はなにを相談してます快く答えてくれる。 彼の言葉は不思議で、特別な言葉ではないのに、そのお陰で凪沙には少しずつ学校で話す人もできた。 また、彼といるとふとした瞬間に、どきっとすることがある。その端正な顔立ちや、大人の考え方に。 「凪沙くんは数学が好きだね。かっこいい。 私は理系科目がてんでダメで。」 冷たい麦茶を差し出しながら、後ろから時雨が覗き込む。 ふわり。爽やかな香にどきりとした。彼の手の触れた肩の部分が熱く感じるのは、夏の暑さのせいだけでは無いだろう。 「…答えが、一つだから…。」 「理由はどうであれ、偉いよ。」 大きな手のひらに頭が包まれて、さらに凪沙の頬は赤くなった。熱くて飲んだ麦茶の水滴がノートに落ちて、文字をぼかした。 穏やかな風が風鈴を揺らす。 ありきたりな幸せ。凪沙は幸せで。 …いつまでも続けばいい、なんて時雨に笑いかけた。時雨は少し寂しそうに笑って、そうだねと答えた。 ぽつり、外で音がして、そこからいきなり雨が降り出す。 「うわっ、雨。」 凪沙は外を見て顔をしかめた。 「雨は嫌い?」 「じめじめするし、なんだか気分まで落ち込むし。梅雨もなんとなく嫌いです。」 「それは残念だ。凪沙くんと会えたのは、雨のおかげなのに。」 …そうだけど、でもやっぱり苦手だ。 心の中で思いながら凪沙は口を噤む。 強くなった雨が屋根を打つ音が、やけに大きく響いていた。

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