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第7話

恋仲になってからもしばらくは、距離は特段変わらなかった。学校が終わると凪沙は時雨の家に行き、やっぱり本を読んだり課題をしたりして。 初めて身体を繋げたのは12月。一緒に流星群を見ようと、時雨の家に泊まった夜のこと。体力のあるうちに時雨のものにしてほしいと泣きながら訴えた。 時雨は「困った子だね」、と笑いかけ、赤子を扱うようにひどく優しく凪沙を抱いた。 星が綺麗な夜。何度もお互いの名前を呼びながら、丁寧にその行為は行われて。 同時に果てたあとは、流星を見る気力もなく身を寄せ合って眠りに落ちた。 3月になって、少しずつ暖かくなってきた。すでに時雨の体力は、1日の大半を床に伏せて過ごす程に衰えている。 執筆は時折スマートフォンでしているようだが、あと一冊で終わりにすると公言しているらしい。 「凪沙くん、外はどんな様子かな?」 床から起き上がり執筆作業をしながら、時雨は弱々しい声でそう言った。 「ここに来る途中、鶯の声を聞きました。」 「春だねえ。」 画面から目を離さずに、にっこりと笑って相槌を打つ。最後の作品がどんな内容なのか、時雨は決して教えてくれない。 「そういえば今日、庭の隅に木を植えたんだよ。」 思い出したように、時雨が言った。凪沙が学校に行っている間のことだろうか。 「何してるんですか!無理しないでって言っ… nn…」 唇に柔らかな感触が触れた。それとともに彼の香が鼻腔をくすぐる。 ずるい、と凪沙は思った。この人は都合が悪くなると、すぐにこうやって凪沙の唇を縫い止めてしまう。 しかも、そんなに優しい顔で笑われたら何も言い返せないではないか。 「水切れに弱い木だから、必ず毎日水をやってほしいんだ。雨の日以外、毎日しっかり。」 お願いできるね?ともう一度、今度は軽いキスをされた。疲れたのか、そのまま時雨は死んだように眠ってしまう。 病的に痩せた時雨の上半身を、凪沙は包み込むようにして抱きしめた。 こんなに近くにいるのに、いつか居なくなってしまうのか。消えてしまいそうなほど儚げな美しい横顔を見つめていると、堪えていた涙が時雨の目元を濡らした。

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