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第73話 灰谷が見たもの

居間では灰谷が明日美に手当てされていた。 憮然とした表情の灰谷に明日美が言う。 「はい、できた。何があったか知らないけど、最初に手を出した灰谷くんが悪いよ」 「……」 「服、濡れちゃってるね。真島くんに借りてこようか」 「いいよ。夏だしすぐ乾く」 「そうだね」 明日美はバケツの水をぶちまけて濡れてしまった床をタオルで拭きはじめた。 灰谷もいっしょに拭く。 一見ふわふわとして大人しそうに見え、ストーカーもどきは怖がる一方、その実、明日美にはどこか肝の座ったところがあることに灰谷は気がついていた。 結衣のようにただ泣いてオロオロしまうのではなく、水をかけてケンカを止め、タオルとクスリの場所を真島から聞き出すと、頭を冷やすように灰谷と真島を別の部屋に離す。 そして、後始末をする。 「灰谷くん、これ終わったら真島くんとちゃんと仲直りしてきて」 「……いいよ別に」 「よくない。きちんと謝った方がいいよ」 「……」 「どっちにしろ、このままじゃ帰れないでしょ」 「……」 「ほら、灰谷くん」 階段の下で明日美が灰谷をうながす。 「……」 「あたしも一緒に行く?」 「……いいよ」 明日美に背中を押されて階段を上がり、灰谷は一人、真島の部屋の前に来た。 謝るっていったってなあ。 小学生じゃないんだから。 ドアが少し開いている。 灰谷は何気なく、中をのぞきこんだ。 灰谷の目に飛びこんできたのは――。 「あっ……ん……結衣ちゃ……そこ……ん……」 ベッドに腰掛けた真島の股間に結衣が顔をうずめている。 「そ、うん……いい。もっと……しゃぶって……ん……」 結衣の頭に手を置き、目を閉じて快感を導き出そうとしている真島の顔だった。 真島! 立ち去らなければと思うのだが、灰谷はその場から動けなかった。 初めて見る真島の男の顔だった。 「んっ……んっ……んっ……あっ……んっ……」 その時、真島と目が合った。 一瞬、驚いた顔をしたが、真島はそれでも灰谷から目をそらさなかった。 「……んっ……んっ……」 次第に満ちてきた快感に震える真島の顔。 結衣の頭を抱えて小さく腰を振りはじめた。 「ふあっ……んっ……んっ……ん……ん~」 自分を見つめ続ける真島の目はまるで……まるで……。 瞬間、灰谷は我に返り、階段をかけ下りた。 心臓がバクバクしていた。 なんだあれは……。 あいつ、なんで……。

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