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第74話 オレ、サイテー
「灰谷くん、待って。早い。手、痛い」
灰谷は明日美の手を引き、早足で歩いていた。
「灰谷くん。灰谷くん!」
明日美の声にハッと我に返った灰谷はやっと立ち止まり、強く掴んでいた明日美の手を離した。
「灰谷くんどうしたの大丈夫?真島くんとまたなんかあった?」
灰谷は明日美の顔をじっと見つめた。
「うち、来る?」
「?……うん」
*
部屋へと上がるマンションのエレベーターの中で灰谷は明日美に言った。
「ごめん、せっかく来てもらったのに悪いけど。送ってくから帰ってもらっていい?」
「え?どうして?さっきからおかしいよ、灰谷くん。やっぱりなんか――」
灰谷は明日美の手を握った。
「したい」
「え?」
「ごめん。したい。抑えられない」
明日美が困った顔をした。
「でも、してばっかりはイヤだろ。だから、送ってく」
灰谷は明日美の手を離すと一階のボタンを押した。
――。
エレベーター内に重苦しい空気が満ちた。
「灰谷くん、あたしだよね?」
「?」
「あたしが、欲しいんだよね」
明日美が灰谷を見つめた。
「うん」
……多分。
灰谷は心の中でこうつぶやいた。
*
灰谷は明日美をベッドに押し倒した。
抑えられない。
自分でも引くほど興奮していた。
荒々しくキスをして、愛撫する。
早く早く。
早く突っこみたい。
灰谷の勢いに戸惑っている明日美のカラダは緊張して固い。
早く。
灰谷は明日美の足を開き、舌を這わせた。
「いやっ……やめて……灰谷くん……」
欲望がふくれ上がる。
止まらない。止まらない。
挿れたい。挿れたい。
「灰谷くん……つけて……」
灰谷は、最後の理性で机の引き出しからゴムを取り出してつける。
痛い。はちきれそうだ。
明日美の中に一気に埋めこむ。
「んうっ…」
明日美が声を上げた。
止まらない。止まらない。
衝動に突き動かされて灰谷は腰を振った。
明日美が必死で灰谷にすがりつく。
「んっ……んっ……あっ……あっ……」
よがる明日美の声に重なって、真島の声が灰谷の頭の中で響く。
『んっ……んっ……んっ……あっ……んっ……』
快感にふるえる真島の顔が、自分を見つめる目が、浮かぶ。
「あ……イク……イク……」
「灰谷く……待っ……」
「んーーー」
灰谷は明日美の中に自分の欲望をすべてぶちまけた。
「はあ~」
肩で息をしながら灰谷はこれまでの明日美とのセックスでは味わったことのない気持ちの高ぶりとつき抜けるような快感を感じていた。
*
「ごめん。本当にごめん」
裸の明日美の背に灰谷は声をかけた。
「……怖いよ灰谷くん。こういうの……ヤダ」
明日美の泣きそうな声。
「ごめん」
それ以上掛ける言葉がみつからなかった。
「シャワー借りるね」
脱いだ服を拾い集めて明日美が出ていった。
オレ、サイテー。
灰谷は枕に顔を押しつけた。
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