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第122話 借りぐらしのマジマッティ

オレは早くも、借りぐらしのマジマッティ暮らしを、ある意味極めつつある……。 マットレスの上でソーダ味のアイスをかじりながら思った。 昨夜、海から自転車で城島さんのアパートに戻った時、アパート前に粗大ゴミがいくつも出してあるのに気がついた。 近々取り壊すって城島さんからのメールにはあったから多分昨日引っ越した人が置いていったんだろう。 目についたのはマットレス。 回収のためのシールが貼ってあったけど、回収日の日付は何日か先だった。 それでエッチラホッチラ、疲れたカラダにムチ打って部屋に運びこんだ。 部屋は二階だから無茶苦茶しんどかったけど、それより何より床に直で寝ると何せカラダが痛い。 シャワーを浴びて服を着替えたら、さすがに電池が切れたようでマットレスに倒れこみ、そのまま眠ってしまった。 そんで今日。 空腹で目覚めたオレはコンビニに行こうとして、改めてアパート前に置かれた粗大ゴミの山を見た。 そのまま運びこんだら生活できるんじゃね?と思える生活雑貨が出してあった。 で、マットレスに引き続き、ちょいとお借りしま~すとチョコチョコと目についた物を部屋に運びこんだ。 その結果……。 部屋にはマンガもあって小説もあって、クーラーボックスでは冷たいアイスもジュースも冷えている。 カセットデッキ(初めて触った)からは甘いオールディーズまで流れ、ベランダでは洗濯したパンツとTシャツが風にはためいている。 もうそろそろ乾いてるかも。 小腹がすいたらコンビニで買っておいたお菓子食べてジュース飲んでアイス食べて。 マンガに飽きたら小説読んで。 眠くなったらそのままマットレスにゴロンと転がって眠って。 素晴らしき借りぐらし。 まるで自分の部屋にでもいるみたいにくつろいでいる。 そんなこんなで数時間。 さすがに我に返る。 借りぐらしは極まったかもしれないけど。 オレ、こんなとこでこんな事してていいの? こんな事しに家を出たの? もうすぐ夏休み終わるんじゃねえの? の?の?の? ・・・。 だ~。 オレはマンガを放り投げてマットレスに転がる。 あ~。 つうか、もうこんな事してるくらいなら帰ったほうがいいんじゃねえの? 遊びに来たの? 一人で色々考えてみたい? 遊んでんじゃん。 いやまあ、もう海行った時点で答え出ちゃった感じだしさ。 じゃあ帰れよ。 う~ん、それがさあ。 オレは自問自答する。 灰谷は……何してるかなあ。 怒ってるかな。 いや、呆れてるかな。黙って出かけちゃって。 でも、もうどうしようもなかったんだよ。 ふ~。 ところでオレ、ちゃんと告れるかな。 いつ?どのタイミングで? なんて言って? あ~~~。 そう。 多分それが怖くて現実逃避してるんだ。 もうこの頭デッカチで腰が重いのなんとかなんねえのオレ。 はあ~。 オレは天井を眺めた。 カセットデッキからはまるで綿菓子みたいな、夢の中で優しく語りかけるようなファルセットボイスが流れている。 あ~甘ったる~い。 こういうのってソウルっていうんだっけ。 デッキに入ったままだったカセットテープ。 ♪woo~Baby Baby~ そう彼と彼女は抱き合ってチークダンス。 周りも目に入らない。 カラダを寄せ合って互いの鼓動を感じて。熱を感じて。 みたいな? いつまでも夢の中にいる感じ。 いたいよ、夢の中に。 そうすれば傷つかなくてすむんだから。 はあ~。 夢の中に、いつまでもいられない……。 ……決めた! 次に二人で会った時。顔見た時。 その時、告る。 無条件待ったなし。 アドリブで。 もうグルグル考えるのはイヤだ。 でもな、オレはいいけど、言われた灰谷にとっては寝耳に水だろう。 それがな。 オレがアイツの事好きなんて思ってもいないだろう。 わああ~。 オレはゴロゴロと転げ回ってピタリと止まった。 やめろ! 灰谷の気持ちは灰谷の気持ちだ。 どう思うかなんてオレにはわからない。 ただ、アイツはきちんとオレに向き合ってくれる。 それだけは間違いない。 うん。 うん。 ……うん。 でも……もう少し……ここにいても……いいかな? ……いいとも! 今日も家に帰れそうになかった。 そう、オレは自分に甘いのだった。

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