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第134話 オレ、告白したからな。
ズビーッ。
トイレから灰谷が持ってきてくれたトイレットペーパーでオレは鼻をかんだ。
「きったねえな」
「しょうがねえだろうが……」
泣きすぎたオレの声は少し枯れていた。
オレたちは壁を背にして並んで座っていた。
「オマエが……」
また涙がこみ上げそうになったのを必死でこらえた。
「……ヘンな事、言わすから」
「おう」
「はぁ~」
「ため息つくな」
「つくわ!……つうかなんでわかったんだよ」
「あ?」
「ここ」
「さあな。テレパ……」
「電波系かっつうの」
灰谷は静かな声で言った。
「オマエが呼んでる気がしたんだよ。んで……オレが、オマエに……会いたいと思ったんだよ。したら、わかったんだよ」
会いたい……灰谷がオレに?
灰谷もそう思ってくれてたんだ。
「……なんだそれ電波系か」
ついついそんな風に言ってしまうオレ。
「オマエ……まあいいや」
灰谷が少し呆れたような顔で、でも、口元をゆるませた。
「真島」
「ん?」
「オマエの気持ちはわかった」
「うん」
「嬉しい、と、思う」
「うん」
「オレも好きだよ」
さらりと灰谷が言った。
え?
オレは灰谷を見た。
灰谷の顔は珍しく少し赤くなっているように見えた。
「だ~っ、恥ずかしい。言わせるなこんな事」
テレる灰谷を見てオレまで恥ずかしくなって来た。
「おう」
「ただ、オマエの好きと同じかどうかは、ハッキリ言っていま、わかんねえ」
「うん」
「だから、オレがわかるまで、時間が欲しい」
「うん」
「その時は、どういう結果だったとしても、オマエに言うから。きちんと言うから。それまで待ってて欲しい」
「うん」
そう。これが灰谷だった。
いつだってキチンとオレと向き合ってくれる。
「んで、これだけは言っておくけど」
「おお」
「もしオレが、オマエの気持ちを受け入れられないとしても」
「うん」
「オレたちは死ぬまでツレだから。おっさんになってもジジイになっても、それは変わらねえから」
「わかった」
「逆にオマエの気持ちがオレからなくなっても、それだけは変わらねえから」
「そんな事絶対にないけど。わかった」
オレたちは顔を見合わせた。
「なんか恥ずかしいわ」
「オレも」
二人、テレたまましばらく黙っていた。
「灰谷」
オレは灰谷の名を呼ぶ。
「ん?」
「灰谷」
「なんだよ」
灰谷がオレを見つめた。
オレも灰谷を見つめた。
オレを見る優しい顔。
ガキの頃から近くで見てきた男前の顔。
オマエのこの顔、オレ、忘れない。
「目の上になんか付いてるぞ」
「え?どこ」
「取ってやるから目、閉じてみ?」
「うん」
灰谷が素直に目を閉じた。
チュッ。
オレはすばやく唇を奪った。
灰谷が目を見開く。
「オマっ…」
「いただき」
「…それ、反則……」
「オレ、告白したからな。これからは全力で行く。油断すんなよ」
オレは高らかに宣言した。
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