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第135話 真島の笑顔

男だ! ちょっとカワイイと思ったのもつかの間、やっぱオスだ。 仕掛けて来やがった。 思っても見なかった真島からのキスに灰谷は動揺した。 「……さっきまで泣いてたくせに」 「え~何それ?知らねえなあ。夢でも見たんじゃねえの~」 「オマエ……」 「つうか、腹減った。うち、帰ろう灰谷」 「オマエ、立ち直り早いな」 真島は大きく伸びをした。 「ああ~スッキリした。オマエに告白する以上に怖いものなんて、もうねえもん」 「オマエ……」 ねえもんって……真島、オマエ、乙女か? 灰谷は真島の顔を見つめた。 灰谷の視線に気づいた真島が灰谷を見てニッコリと微笑んだ。 解き放たれたような、これぞ真島というキラキラしたまぶしい笑顔だった。 またしても反則……。 「ブサイク」 思いとは裏腹な言葉が灰谷の口から飛び出した。 「なんだテメー、オマエが泣かせたんだろうが」 「はあ?逆ギレ。やっぱ泣いてたんじゃねえか」 「泣いてねえわ」 真島は電話を掛け始めた。 「ああ、母ちゃん。オレ。オレオレ……カフェオレじゃねえよ。今から帰るから。お腹すいた……うん、灰谷もいっしょだよ。灰谷が母ちゃんのオムライス食べたいって…うん…うん。ほいじゃあね」 「オムライス食べたいなんてオレ言ってねえぞ」 「好きじゃんオムライス」 「好きだけど」 「いよっと」 真島が勢いよく立ち上がった。 「コンビニ寄ってプリンと母ちゃんの好きなアイス買って帰ろうぜ」 「つうかオマエ、これ。アメリカンドッグは?」 「ワリぃ、当分いいや。一日二本を四日続けるとさすがにな」 「そりゃそうだろう」 「いちごオーレはありがたく頂くわ」 真島はストローを刺して飲みはじめた。 そんな食生活か。 そりゃあ節子の料理が恋しくなるわ。 「んでも(チューチュー)ありがとな灰谷(チューチュー)来てくれて(チュー)」 テレ隠しなのだろう。いちごオーレを盛大にチューチュー吸い上げながら灰谷の顔を見ずに礼を告げる真島に頬を緩ませながら灰谷は返した。 「おう」 * 「これでよしっ!」 部屋の荷物を元の場所に戻し終わると手についたホコリをパンパンと払いながら真島が言った。 「んじゃあ、帰るか」 「あ!……ワリぃ、忘れ物。ちょっと待ってて」 「おう」 真島は一人アパートに戻って行った。 ――どうしてこの場所がわかったのか? 灰谷は思い出したのだ。 あの日、明日美との別れを告げた公園からの帰り道、このアパートの近くで真島が何か言いかけた事を。 『灰谷……オレ……オレさ……』 でもすぐに言いやめて、その後しばらくこのアパートをじっと見つめていた事を。 ここは多分、あの城島ってやつの……そんな気がする。 灰谷の胸の中にモヤモヤとした気持ちが広がった。 ふう~。 やめよう。これ以上考えるの。 あいつが何か言うまでは。 見つかったんだから良しとしよう。 灰谷は思った。

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