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囚われのMr.RIOT

 午前9時、登校時間はとうに過ぎているのだが朝が弱いユウトはあくびをしながら通学路を歩く。  整えられた赤い髪、左側2本ラインの剃り込み、赤いチョーカー、細くて鋭い眉と目つき、それだけで他人はユウトに寄り付かない。そんなことをユウトは気にしてない。むしろ好都合、ユウトに近づくのはだいたいクソみたいに喧嘩を売ってくる連中か強者に媚を売ってくるタヌキだけ。  でも今日だけは違っていたらしい。  ユウトは見慣れた公園の木の蒼が(かす)んで見えて、あとは真っ暗になった。  真っ暗から()めて、ユウトに見えたのは薄暗いコンクリートの風景だった。 「なんだ…ここ……」  意識は朦朧としながらもユウトは立ち上がろうとした。  が、それができない。  手足に力を入れるとギリギリと皮膚に食い込む。それでユウトは意識がハッキリした。 「ンだよ、これぇ…!」  ユウトは驚愕した。  両腕は頭の上で革ベルトで縛り付けられ、脚は膝を曲げた状態を黒いガムテープでぐるぐる巻きに、着てたはずの制服も下着も、そしてジョー高の支配者への忠誠の証である赤いチョーカーも、全部なくなっている。 「誰だ、よ、これ、どこの、奴が…! くそっ!」  ゴロゴロと転がりながら拘束を解こうと試みるが頑丈過ぎてそれができない。逃げようとするユウトはまるでダルマのようになっていて滑稽である。 「なんだ! くそっ! 全然、取れねぇ! 誰かいねぇのかよ!」  声は響かない。壁が少しだけふわっとしていてこれが吸音材で完全防音になっているとユウトは判断した。 (本当にどこだ………くそっ! 今日ノブトんとこに他校の連中が襲撃するかもしれねぇのに…!)  ユウトが思ったのは自身ではなく他者の身の安全だった。  ユウトはジョー高のNo.2、ならばNo.1が存在し、ユウトはこのNo.1に忠実だった。  ――ジョー高のNo.1、鯉沼 ノブト  ユウトの双子の弟だ。ユウトが太陽のように真っ赤であるなら、ノブトは闇のように黒である。  ノブトは白くてヒョロくて黒髪の優等生という見かけで制服も規律正しく着用している。誰にでも朗らかに接してユウトとは正反対だった。しかしノブトは絶対的No.1で、ユウトはその右腕。 (チョーカー…どこにあんだよ! ふざけんな! 持ってった奴ぜってぇ殺す!)  裸にされたことよりも、首にあった赤いチョーカーを取られたことがユウトにとっては屈辱だった。  諦めてたまるか、ともう一度動こうとしたその時、部屋の重そうな扉が開いた。 「やぁ、お目覚めかな、Mr.RIOT ……いや、僕の可愛いユウト」

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