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第3話

 自分以外の誰かに抱かれる事を中也は承諾した覚えは無い。然し其れが中也を気遣ってこその行動であると理解するのには難儀をした。  だから中也は唯一つの条件を太宰に呑ませた。  ――自分が御せる相手のみにする事。  意図的か無意識か、太宰が他の男を呼び寄せる性質であるのを中也は厭という程知って居る。初めの頃は芥川を含め凡て蹴散らしてきた中也であったが、自らの任務が立て込み必然と太宰を一人にする時間が多く為ってきた事から、条件を無理矢理にでも呑ませる事で『自由』を与えた。  探偵社など今直ぐに退職させ、自分が行く先々に連れて行く事が出来たならばどれ程気が休まる事だろう。其れでは太宰に群がる他の男と何も変わらない。  強制をした心算は無い。太宰は自らの意志で中也を選んだ。 「――――中也、」  囁く小声と共にふわりと背後から覆い被さる冷えた躰。喚ばずとも自ら脚を運ぶとは当初からは想像も出来ぬ程好かれた物だと、其れを何よりの自負とする中也だったが、此の日の太宰の様子が普段と違うと気付く事が出来たのも長年の付き合いから来るものだった。  太宰は自分以外の人間と関係を持った時、其の事実を告げる事は無い。太宰にとっては少し前の過去に何が遭ったかより今目前に居る中也と過ごす時間が重要だからだ。  ――何かが違うと中也が察したのは太宰が普段よりは切な気に中也に甘えて居るように感じられたからだった。言葉は初めの一言のみ、まるで匂い付けをするように背後から躰を寄せる。胸元に回された手は強く中也の襯衣を掴み、水浴びでもしてきたのか冷えた躰は背中から中也の体温を奪って行く。  女性が好んで使用するような甘ったるい芳香はしない。其れを秘匿するように水浴びをする繊細さを持ち合わせて居るのならば初めから中也以外の相手を許したりはしない。 「だーざい」  襯衣を握る手の甲を擦ると其の手を彷徨わせ中也の手を捜して指を絡ませる。こんな時間の経過も悪くないと思いつつも直立し続けるには厳しくもある。折角愛しい恋人が帰還したのだから二人きりの時間をもっと慈しみたいと考える中也の考えは間違っても居ない。 「中也、中也……ねえ、中也……」  項に擦り付けられる太宰の鼻先と吐息。擽ったくもあり、いたく愛おしくもある。

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