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第4話

 隻手を背後へと回し頭部を探る様にして撫でれば手触りの善い柔らかい髪が指に触れる。宥めるようにして撫でても其れを避ける素振りが窺えなかった為、拒絶の意思無しと判断した中也は太宰の腕の中で身を翻す。  然し、太宰の顔を見た瞬間中也は己の眼を疑った。 「――なッ!?」  声を挙げた手前既に時遅しと知り乍らも、其れを見なかった事にする為、中也は爪先で立ち上がり太宰の頭を抱え込んだ。  今迄一度でも垣間見た事があっただろうか。何時如何なる時も過剰ともいえる自信を露わにする太宰の双眸が赤く腫れて居た事を。  踵を床に付ければ必然と太宰は背中を丸める姿勢となる。後退りは歩き難くもあったが離れようとしない太宰を引き摺る形で寝台へと連れて行く。 「ほら太宰、膝の上来い」  寝台に腰を下ろしそっと背中を撫でて誘導すると顔は俯いた儘もぞもぞと片脚ずつ上がり、太宰は向かい合う形で中也の膝の上に乗る。其の姿はまるで大きな子供の様だと思いつつも中也は耳の裏から首筋へと口吻けを落として行く。  深く追求しようとすれば太宰は頑なに心を閉ざし離れて行って仕舞うだろう。大切な時に何も話して貰えないという事は物悲しくもあるが、現にこうして太宰は中也に扶けを求めて居る。男として此れ以上に幸福な事があるだろうか。 「色男、綺麗な顔が台無しだぜ?」  中也を何度も傷付けて居る事は太宰にも判って居た。最終的に帰る処は此処だからと云い訳にする心算は無い。話せば更に中也を悲しませる事に成るだろう。  ――――怖かった。  其の言葉を口にすれば中也の激昂は明らかだった。 「……もう怖いモンは居ねェよ」 「ッ!」  太宰の瞳が大きく揺れた。心の内を見透かされたような言葉に、心臓を鷲掴みにされたようだった。  堪らず大粒の涙が零れ落ちると、「勿体無ェ」と呟き中也は其の雫を舌で舐め取る。

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