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第三話 Be your lover

 逃げ出したいのに、ずっとこのままでいたい。目を逸したい程恥ずかしいのに、もっと見ていたい。もういっそこのまま死んでしまっても良いくらい幸せだけどずっとこの人と生きていきたい。俺は顔を見られたくなくてルーカスにしがみついた。色々な感情がぐちゃぐちゃになった俺から漏れた言葉はとても短くてただ単純なものだった。 「ルーカス……好き」 ルーカスの、俺を抱きしめる手が少しだけ強くなる。 「オレも、アイリスが好きだよ」    ルーカスにそう返されて、本当に簡単で単純な事だと気付いた。ただルーカスと一緒に居たくて、嬉しい事も辛い事も一番に共有したくて、俺が英語の勉強も仕事も頑張るのはルーカスに近づきたいからで、どんなに条件に合う女に告白されても全く気持ちが揺れなかったのはルーカスが心に居たからで……  俺は確かにルーカスに恋をしている。ルーカスと離れる前から、そして離れてもずっと俺はルーカスが好きだった。再会した今、前よりも格好良くなったルーカスに今迄以上に好きになってしまった。ルーカスの優しさは変わっていないまま、前以上に逞しく男らしくなったから。俺はルーカスを見て、慣れない発音でゆっくり言った。 「あ……I want to become your lover.(貴方の恋人になりたい)」 言い切ると、ルーカスは目を輝かせた。 「Of course I will! I love you, too.(勿論!オレも貴方を愛してる)」 良かった、通じた……多分。告白系の言葉は真っ先に薫から教わった。ルーカスは嬉しそうに俺を見ている。 「ありがとう、オレの国の言葉覚えてくれて。嬉しい」 「ルーカスこそ日本語上手くなってる。前は片言だったのに」 「練習したからね。アイリスにもっといっぱい伝えたかったから」 実際、ルーカスの日本語はとても流暢になっていた。俺達と殆ど変わらないくらいだ。きっとルーカスの父さんに教わったんだろう。 「アイリス、本当はね、オレ、ちょっと怖かった。アイリスに他に好きな人ができていたらどうしようって……アイリスは格好良いから女の子がいっぱい振り向くでしょ? だからアイリスの理想の子がもしかしたら一人くらい居るかもしれないって思った。だけどどうしてもオレを選んでほしくて……だから今すっごい嬉しい」 ルーカスはホッとしたような、今にも泣きそうな顔をしている。俺が女と付き合うかもしれない、なんて考えながらそれでも自分を見てほしいと言った。ルーカスは「もしかしたら自分より良い人がいるかもしれない」なんて言って手を離すような男じゃなかった。 「馬鹿だな。俺はルーカスの事しか考えてなかったってのに。絶対に俺を迎えに来てくれるって信じてた」 ルーカスを不安にさせたのは俺だ。女と結ばれたいだとかルーカスを好きかなんて分からないだとか言って、ルーカスの誘いを断ったんだ。馬鹿なのは間違いなく俺の方だろう。 「ありがとうアイリス、オレを選んでくれて……待っていてくれてありがとう」

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