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第五話 お返しの恋文
俺の家に帰って、以前のように二人で夕飯を食って湯浴みをして一つの布団で眠った。これは二年前にルーカスが何度か泊まりに来たときと何も変わっていない。そう……何も変わっていない。
「おはようアイリス。どうした?」
「いや……何でもない。二年前と変わらないなって思って」
「ふふっ、やっとまたアイリスと一緒に寝られた」
ルーカスの嬉しそうな顔を見たら何も言えなかった。けどさ、正直ちょっとくらい期待するだろ。二年振りに再会してやっと両想いになったんだから。
「お腹空いた。朝ご飯作ろ! お米どれくらい用意すればいい?」
うきうきとルーカスが米びつを引き寄せた。ルーカスは家に泊まったときの食事作りは毎回手伝ってくれる。
「昼と夜はどうする? 一緒に食うならいっぱい炊いておくが」
「ごめんなさい。夜は船に戻る。お昼はお店行こ」
「じゃあ丸一日分でいいな。こっちの器で計ってくれ」
「はーい」
ルーカスが米を炊く間に俺は布団を片付けて簡単な掃除を済ませてから味噌汁を作る。
二人で朝飯を食べてから、俺はやっと手紙の事を思い出した。
「ルーカス、あのさ」
「うん?」
「初めて会ったとき、俺に恋文を渡してくれただろ」
「渡した。待って、何か間違ってた? すごい下手くそでヘンだったのは覚えてるけど、何かあった?」
ルーカスの耳が急に赤くなった。俺は久しぶりにルーカスの赤面を見る。ルーカスが恥ずかしそうに顔を赤らめたのは俺に恋文を渡してくれたときと今だけだ。
「変じゃない。嬉しかったんだ。本気で俺を好いて一生懸命書いてくれた恋文を貰ったのは初めてだったら。だから、俺も書いてみようって思って」
そう言って俺は昨日ルーカスに会う前に書き直した恋文を取り出した。途端に一気に心臓の音が早くなる。勢いに任せて震える手でルーカスの方に恋文を突き出した。
「あ、アイ……ラヴ、ユー」
ちらりとルーカスの顔を見れば、ルーカスは顔を綻ばせて俺の手から恋文を受け取った
「嬉しい。ねえ、これ今読んでもいい?」
「えっ、ああ……良いよ」
自分はルーカスの断り無く目の前で開いた手前、今読むなとは言えない。俺はルーカスに背を向けて座って読み終わるのを待つ。
「凄い、全部英語だ」
「書き方とか綴りとか全部教えてもらって書いた。ルーカスが俺に日本語で書いてくれたから俺もルーカスの国の言葉で書いてみようと思って」
「ありがとう」
そう言ってルーカスは無言で読み続けた。待っているだけのこの時間は思った以上に辛い。何故何も言ってくれないんだろうか? もしかしたら何処か間違って読みにくいのかもしれない。通じないところもあるかもしれない。不快にさせる表現を使ってしまったかもしれない。静かなせいで、そんな事を一人でぐるぐると考えてしまってだんだんと不安が募る。
「アイリス……」
「な、なんでしょう?」
「すっ……ごく嬉しい」
ルーカスは俺の恋文を抱き締めてふにゃりと笑った。
「どうしよう、顔がニヤけて戻らない。一生の宝物にするね」
「あ……ありがとう。ルーカスが書いてくれたやつもずっと大事に取っておいてあ……る」
言い終わる前にルーカスが抱きついて来た。ルーカスの匂いと、若干海の匂いがする。
「アイリス、好き。好きだよ。大好き。愛してる」
ルーカスに抱きつかれたまま押し倒され、目の前にルーカスの綺麗な顔があり、その更に奥に見慣れた天井があった。ルーカスの長い金髪が俺の顔を囲む。
「ルー……カ、ス?」
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