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第八話 初夜(R18)
「ただいまアイリス。お待たせ」
「お、帰り……」
「ごめんなさい、髪乾かしてたら遅くなった」
「や、大丈夫だ」
どうしよう? どうしようどうしようどうしよう。ルーカスの顔を見たらまた緊張がぶり返してきた。今すぐ逃げ出したい。だけど何処にも行きたくない。ルーカスがこちらへと近づく分だけ俺は後ずさりした。だがこの狭い部屋ではすぐに壁際へと追い詰められてしまう。
「アイリス?」
「ッ……」
ルーカスに頬を触られ、ビクリと肩が震えた。怖い……わけではない。期待と緊張とが入り交じってどうしようもない気持ちに襲われている。
「……やっぱり、止めようか。無理強いはよくないから。怖がらせてごめんなさい」
ルーカスは少し寂しそうに肩を落とした。俺は慌てて離れようとするルーカスを止めた。
「嫌だ。止めたくない」
「でも……」
「怖くない。その……緊張……して、すっげえルーカスの事、意識してるだけ、だから……してほしい」
「分かった」
一瞬だけルーカスの唇が額に触れてから、抱え上げられて布団に優しく降ろされた。
「優しくするね」
「優しくなくても良い。っていうか、酷くされたい」
「酷くなんてしないよ。お願い、今晩だけは何も思い出さないで。オレ以外の事は何も考えないで」
そう言ってルーカスは俺の額に優しく口付ける。その口付けが目尻、鼻の頭、頬、そして唇へと落とされた。唇を重ねるだけの口付けを三回して、下唇を軽く吸われ、甘噛みされる。再び触れるだけの口付けをして、やがてルーカスの舌が俺の口内に侵入してきた。
どれくらいの時間そうしていただろうか? 最初は遠慮がちに俺の歯列をなぞっていたが、もうすっかり慣れたのか、舌を絡めて好きに弄んでいる。
「ん、っ……ふ……あ」
「ンむ、ン……ッは……」
一回が長い。息が持たない。ルーカスから与えられる熱と酸欠で頭がぼうっとする。ルーカスの背に回した手で軽く叩いたらやっと離してくれた。
「はあ……はあ……ごめんなさい、夢中になりすぎた。苦しかった?」
「はっ……はあ、だいっ、じょぶ」
ルーカスにしがみつきながら途切れ途切れに答えた。体から力が抜けて、ルーカスに寄り掛かっていないと後ろへ倒れてしまいそうだ。ルーカスは俺の腕を解き、そしてゆっくりと布団に押し倒した。
「アイリス、していい?」
「うん……来て」
両腕を広げルーカスを招けば、長い金髪が俺の顔の周りに落ちてきた。まるで簾みたいだ。さらさらの綺麗な髪が俺の視界を遮っている。今俺に見えるものはルーカスの、西洋人特有の色白で整った綺麗な顔と髪だけだ。
ルーカスは俺の喉や首筋に何度も口付けながら、器用に片手で着物の帯を解く。
「まだ何か付いてる……」
帯を解ききったところでルーカスが不思議そうに呟いた。
「ああ、着崩れないように着物を抑えるやつだ。ちょっと待ってろ」
「待って、オレがやる」
俺が返事をするより早く、ルーカスは手早く伊達締めを解く。途端に着物は腹の辺りでだらりと崩れた。
「ひゃ……」
「ん、っ……やっとアイリスの肌が見えた」
ルーカスは着物の隙間から手を入れ、胸元から上半身を一気に開けさせ、鎖骨の間に口付ける。それからまた身体の彼方此方に口付けられ、ぬるりとした生温かい舌が這う。それと同時にルーカスの指が腕や胸元を撫でる。それだけでも達してしまいそうな程気持ち良いのは、ルーカスにしてもらっているからだろうか?
「ルーカス、もっといっぱい触って?」
「此処?」
「んあ、あっ」
右手で胸の突起を軽く摘まれた。望んでいた刺激に思わず嬌声が漏れる。
「アイリスは此処触られるのが好き?」
「んッ、あ、好き。気持ち、良い」
「そう」
そう言ってルーカスは反対の突起を咥え、吸った。
「やっ、あ……ああッ、待って、やあ」
突起を優しく甘噛みされ、舌で転がされ、それが気持ち良くて腰が浮いてしまう。必死にルーカスの頭と手首を掴んでも、ルーカスは離れないどころか、更に執拗に攻めてくる。
「ルーカス、ルーカス……」
名前を呼べば、漸くルーカスは顔を上げた。
「ふふっ……さっきからずっとオレに腰を擦り付けてる。気持ちいい?」
そう聞かれ、俺は恥ずかしくて顔を背けた。熱が溜まって固くなった自身を無意識にルーカスに押し付けていた事にやっと気付く。
「アイリス可愛い」
ルーカスはチュッと音を立てて腹に口付け、俺の着物を全て脱がせ、汚れないように帯と一緒に布団の横に避ける。
「これももう要らないね」
「あ、ちょっ……」
手で抑えようとしたときには既に遅く、あっさり下着も剥ぎ取られ、俺はルーカスに裸を晒す事になった。ルーカスは無言でじっくりと俺を見下ろす。
「恥ずかしい……」
先程のように触れられているわけじゃないのに、一層身体が火照って熱くなる。暫く俺を眺めて満足したのか、ルーカスは容器を取り出し、中の液体を出して掌に伸ばした。容器にアルファベットが書かれていたから多分イングランドの物だろう。ルーカスの液体に濡れた指が俺の後孔に触れた。
「ひッ……あ」
指は円を描くように入り口をなぞってから、ゆっくりと奥へと入ってくる。
「痛くない?」
「平気、ふ、あッ……大丈夫だ」
「それなら良かった」
「ん、あ……あ」
俺の中を解す指があっという間に、二本、三本と増えていっているのが分かる。十年間性処理の道具として扱われ続けた身体は容易く解れ、時間が開いてもまだ簡単に使える事を物語っている。
「もう挿れてもいい?」
「んッ……いーよ、来て」
俺はルーカスを誘うように軽く足を開た。俺の返事を聞いてルーカスは着ていた服を一気に脱ぎ捨て、裸になる。
「え、ちょっと……待って……嘘だろ?」
「ん?」
固くなっているルーカスのそれを見て俺は我に返った。そんな俺をルーカスは不思議そうに首を傾げる。
「そんなでかいの入らない……と思う」
ルーカスのは俺より一回り大きく、もっと言ってしまえば今まで見てきた中で一番の大きさだった。若干凶器に近いそれは、もう先端から我慢汁が溢れ、根元まで濡れていて我慢の限界が近い事が分かる。
「もっと解した方がいい?」
けれどもルーカスは俺の反応を見て再び中に指を滑り込ませた。先程と同じように、前立腺を刺激しながら奥まで優しく押し広げられる。
「や、ッ……だいじょぶ、だから」
「本当に? 挿れてもいいの?」
その言葉に、俺は何度も頷いた。最悪、壊れてしまっても構わない。それよりも今はルーカスとまぐわいたい。"最後"が大好きな恋人ならば本望だ。
「何か余計な事考えているでしょ?」
「そんな事な……あっ」
ぐいっ足を持ち上げられ、そのまま大きく開かされる。慣れた手付きで避妊具を取り付けたルーカスは、モノを俺の孔に宛てがい、押し付けた。
「ふ、ッ……う、ぐ、は……あっ」
「息、止めちゃ駄目だよ。ゆっくり深呼吸して」
ゆっくり、ちょっとずつルーカスのが中に入ってきているのが分かる。俺はルーカスにしがみついて、必死に歯を食いしばって痛みと圧迫感に耐えた。
「ン、ッ……は……良く頑張ったね。全部入った」
「ほんと? ルーカスと、繋がれ、た?」
「うん。繋がってる」
良かった。俺はほっと息を吐く。まだ下腹は痛いし、内臓が圧迫されているようで苦しい。
「まだ痛い?」
上手く息ができなくて、ルーカスの問いに首を横に振って返した。
「嘘吐き。目が泳いでる。まだ辛いんでしょ? 無理しないで、合わせるから。ちゃんと大事にさせて」
「う……ん」
ルーカスは痛みと圧迫感が薄れるまで、何度も触れるだけの口付けをしてくれた。口付けからも指先からも、繋がった所からもその声からも、全部からルーカスの愛情を感じる。最初の言葉通り、俺はルーカスに優しくされて大事にされている。汚い情欲じゃなくて、ちゃんと愛されてる。嬉しい筈なのに涙が零れた。
「アイリス? そんなに痛かった?」
「違う、違う……分からない。止まらないんだ。何で? 今、すっげえ嬉しくて幸せなのに……っ」
止めようとしても、涙は溢れて次々と流れていく。止まらなくてどうしようもなくて、嗚咽が漏れる。まるで赤子のように、産まれたままの姿で、声を上げて泣いた。
その間ルーカスはずっと俺を抱きしめて背中をさすってくれていた。
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