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第九話 可愛い、愛しい(R18)
可愛い、可愛い、愛おしい……
「アイリス、アイリス」
「ルー、カス……ルーカ……ス」
名前を呼べばオレに手を伸ばして呼び返してくれる。綺麗だ、可愛い、と言えば恥じらうように顔を背け、繋がった秘所をキュンキュンと締め付けてくる。頬を優しく触れてキスをすれば笑顔を見せてくれる。手を握れば握り返してくれる。
「んッ、あ……あ、っは、ああッ」
絶えず口から零れるその喘ぎ声は脳が蕩けそうな程に甘美で心地良い。可愛らしい。何度も果て、腹に吐き出された白濁すらも愛しい。今が永遠に続けばいいのに。オレがアイリスを愛して、アイリスがオレを求めてくれるこの時間が。
オレの腕の中で啼くアイリスは、オレが今まで見てきた何よりも美しい。まるで花みたいだと思った。瑞々しくて綺麗で色鮮やかで、見る者の心を癒す花。こんなにも可愛らしく美しく咲く花を、どうして手酷くできるものか。
「ルーカス、俺、また、イッちゃう……も……限界」
「いいよ。今度は一緒にイこうか」
そう言って抱き締めれば、アイリスはオレの首に腕を回してしがみついて果てた。
「ああッ……ん、やあ……あああッ」
「は、あ……んあ……あ」
絶頂を迎えたアイリスにナカを締め付けられ、オレはコンドーム越しにアイリスの最奥に射精した。アイリスはそれすらも感じたようで、あ……とオレの耳元で息を漏らす。再び腰を打ち付けそうになる衝動を抑えてアイリスのナカからペニスを引き抜き、コンドームを外して処理した。
ぐったりとしているアイリスの身体をお湯で濡らしたタオルで拭き、汚れた布団のシーツを剥ぎ取る。
「……もう終わり?」
オレの腕を掴んでアイリスは言った。目元には涙の痕が残っている。アイリスの身体への負担を考えれば一回で止めるべきだとは思うが、そう問われたら、もうお終いと言ってしまうのは勿体無い。
「ルーカスが疲れてなければだけどさ、避妊具無しでも良いからもう一回したい」
「アイリスの方が疲れてるでしょ?」
「大丈夫。それより凄え気持ち良かったから……もっとルーカスに抱かれてたい」
恋人にそんな風に強請られたのにそのまま服を着て眠る男は居ないだろう。未使用の予備のコンドームを鞄から取り出して、アイリスを再び押し倒した。明日の事は明日のオレが責任を取る筈だ。アイリスの足を開かせてペニスを宛てがい、ゆっくり沈める。もう慣れたからなのか、先程よりもずっと楽に入った。軽くアイリスの奥に押し付けるように擦れば、声を零しながらビクビクと震えてナカを締め付ける。
オレは、アイリスを大事にできているだろうか?
できる限り優しくした。愛情を余す事無く全て注ぎ込んだ。沢山名前を呼んで、愛していると態度でも言葉でも伝えた。これ以上はどうすれば伝わるだろう。セックスを「汚い事」だと言っていたから、快楽の無い清いままの関係でいるのが一番良かったのかもしれない。だけどアイリスはオレを求めてくれた。オレはアイリスを抱きたかった。本来はこうして愛し合う為の手段である事、とっても幸せで気持ちいいものだという事を知ってほしかった。
「アイリス、大好きだよ。愛してるよ」
「は……んあ……あ、俺も、愛してる、愛してる、ッあ、や……あ」
腕も足もオレに絡めてしがみつきながら、アイリスはオレが腰を打ち付ける度に嬌声を上げた。その声に理性を持っていかれそうになる。もし理性の糸がプツンと切れたら、きっとアイリスの嫌いな下衆な獣になってしまう。それだけは避けたくて、どうにか自分を保った。
「も、むり、やらあ……やら、んあ……ルーカス、ルーカス、ッあ……」
「無理? 止める?」
「いじわる……」
一度動きを止めて聞けば、アイリスは泣きそうな顔でそう言った。絶頂を迎える寸前だったからかとても辛そうだ。
「止めないで、もっとして」
アイリスはもどかしそうに自らオレに腰を擦り付けてくる。
「可愛い」
オレは再びアイリスに腰を打ち付ける。また二人で同時に果てるのにそう時間はかからなかった。
隣で疲れ果てて寝ているアイリスを見る。規則正しい寝息を立てて身動き一つ取らずに眠っていた。
その身体は所々に花弁のような紅が散っている。全てオレがアイリスに付けたものだ。起こさないように気を付けながら頭を撫で、額にキスをした。
離れていた二年間、とても不安だった。何度も何度も、迎えに行ったアイリスの隣にはとても可愛い和服を着た女の子が居る夢を見た。女の子の顔ははっきりとは見えなかったけれど、アイリスは愛おしそうにその子に笑顔を向けて話していた。目が覚める度にゾッとして、眠るのが怖くなった。もし本当にアイリスが他の誰かを選んだら、その時は潔く手を引こうと思っていた。だけど、どうしてもオレを選んでほしかった。オレがアイリスを笑顔にしたかった。オレが一番アイリスを大事にしたかった。だからアイリスから想いを告げられた時は本当に嬉しかった。
「オレを選んでくれてありがとう」
「俺の方こそ、見つけてくれてありがとう、だ」
眠っていたと思っていたから声が聞こえた事に驚いた。もしかしたら起こしてしまったかもしれない。
「ごめんなさい、起こした?」
「いや、聞こえただけだ。ルーカスが俺を見つけてくれて、好きになってくれたから俺は今こんなに幸せなんだ。ルーカスに出逢えなかったら俺はきっと今でも何もせずに只生きてるだけだった。だから……」
ありがとう、と眠たそうな声でアイリスはもう一度呟いた。オレは笑ってその頬にキスをする。それから、手を繋いで眠った。
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