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第2話 大人の味がする!
「リラさん、おはようございます!」
手洗いを終えパタパタとレジに戻ってきたタァリは接客に戻った。
「今日のおすすめはこのタルトなんです!さっき舐めたらすっごく美味しくて!」
「おい、タァリ……リラさん、すみません、こいつの言うことは半分無視してください……ああ、このタルトを試食していってください」
「ね!美味しいでしょ?」
自分が作ったかのように自慢気に胸をはるタァリにイリヤは頬を緩めた。
太陽がまだ上がらない時間帯から仕込んだタルトは、もう少し大人の舌に合わせた甘さ控えめのクリームを入れる予定だった。
そう、梅雨の時期だから甘さ重視でなくサッパリとしたシトラスの風味を活かして、ホットココアやチャイティーのシナモンに合うような甘すぎないタルトになるはずだったのだ。
予定通り、バターと卵それにグラニュー糖と混ぜ合わせたクリームにレモンピールと果汁を加え、ザルを使いだまにならないように濾すと艶々と輝き爽やかな香りが漂った。スプーンに一口分掬い味見をし微調整を行い、これでいいかなと思ったころに、二階で寝ていたはずのタァリがパジャマのままキッチンに降りてきたのだ。
「ん…イリヤさん…おはよ」
眠そうに瞼をこする少年はてくてくとイリヤの下に近づいてきた。
「起きたら起こしてって言ったのに…」
いつもは敬語で話しかけてくるタァリは、起き抜けだけそれを忘れてしまうようだ。
「タァリ、おはよう。一応声はかけたぞ。余りにも気持ちよさそうに眠っていたから無理やり起こさなかっただけだ」
「あのね、イリヤさんと気持ちいことした夜はすっごく良く眠れるの!」
「お、お前…絶対他のやつにその話をするなよ!」
「え?!なんで?気持ちいいこと話しちゃいけないの?」
「はぁ…ダメだ。俺とお前の秘密。分かったか?」
「むー、意味わかんない! でも、イリヤさんとの秘密なら守る!あ、それより…すごくいいにおいするね!」
「おい、ボウルに指を突っ込むな。梅雨の新作だ。ほら、試してみるか?」
スプーンで掬ったクリームをタァリの唇にあてると紅い舌が顔を出した。
その舌が己の性器を這っていた様子を思い出しイリヤは腹の底に熱が集まるのを感じた。
――二時間後に開店だ。今は我慢我慢。
「…甘くない」
イリヤの心の葛藤を知らぬタァリはしかめっ面を寄こした。
「甘さを抑えたからな」
「ええええ、なんで!これじゃあ食べれない!」
「そこまでひどいか?」
スイーツ作りは得意だ。
生活の糧にするほど得意なのだから「食べれない」なんて評価を受ければ多少心が傷つく。
「大人の味がする……」
小さく呟いたタァリを自分の胸に引き寄せ額に唇を落とすとイリヤはクスクスと笑い出した。
「大人の味にしたんだ。お前には早すぎたか?」
耳元で呟かれる言葉は甘いものではないのに、熱い吐息が耳たぶや首をくすぐり、タァリは頬を赤らめた。
「もうちょっと甘かったらもっと美味しくなるなって思っただけだもん」
「ああ、お前が言うならそうかもしれない」
腕の中で熟れた苺のように真っ赤になった少年にイリヤの心は躍った。
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