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第3話 タルト完売!
――美味しいそうなのはタァリだ
出会ったその日からタァリは美味しそうだった。一緒に生活をしていくにつれどんどんと「気持ちいいこと」を仕込んでいくと、少しずつ身体が熟れ吐息に甘さが増してきた。
仕事が恋人だと豪語していたイリヤが心を開ききった相手はタァリだけだった。そう、何も知らない、疎くて未熟でおっちょこちょいで陽気で、雨の日のどんよりとした空気もカラっとさせてしまうような少年にイリヤは心を許したのだった。
「もう少し砂糖を加えるか…」
タァリがもう少し甘くしてと言うから、甘さ控えめになる予定だったタルトは甘ったるいクリームにシトラス風味が混ざり合う絶妙なタルトになった。
コンコンコンと雨が窓を叩く。
この時期は一日中こんな感じだ。やまない雨に、うんざりした人たちが店を訪れ、いつも以上に店内に長居する。
タァリに出会う前のイリヤは、接客が上手いと評判だった。
それでも、長年この仕事をしてきて培った接客スキルであって、心から打ち解けてくれていないことをこの街の人たちは知っていた。だからと言って、とびっきりの笑顔でスイーツを売るイリヤを嫌う人はいなかった。
彼が作るスイーツやサワドーブレッドを口にすれば、誰しもが「美味しい」と言い、彼の心の良さが分かる味だと頷いた。
「イリヤさん、おつかれさまです!」
「店の掃除は全部終わったのか?」
キッチンの片づけをしていたイリヤの腕にタァリが纏わりつくと、うんうんと頭を上下に振った。
「レモンカードのタルト、全部売れちゃいました!」
「全部売れたのは良いことだ」
「でもー、僕今日は一個も食べてなくて!」
「一日くらいあれを食べなくても死なないだろ…」
「むー!意地悪ですね!」
「は?何が意地悪だ」
「だって、今日はブリオッシュを一個落としただけで、他に落としたものなかったのに!」
「で、それを褒めて欲しいのか?お前、ブリオッシュ落としたの俺に報告してなかったよな」
「う…だって、お仕置きやだもん」
「やだもんじゃない。お仕置きだ」
「ええええ!」
「二階で待ってろ」
「分かりましたぁ…」
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