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第12話
席が隣同士だと必ずペアで巡ってくるものがある。日直当番だったり、教師から頼まれる雑務もまた然りだ。
今日は非常に残念なことに、オタクの瀬名と日直当番である。
少し早く登校して黒板掃除したり、花瓶の水取り替えたり。大した雑務じゃないけどやらなきゃいけないことがあった。
性に緩くて女の子大好きなだらしない俺だけど、意外と真面目なところもある。決められたことはちゃんとやらなきゃっていう責任感は強い。
それは進学する際の内申に関わることかもしれないということが頭の中にあるからだ。簡単に言えばただの小心者である。
だとしてもちゃんとやる辺り、俺って偉いとか思っちゃうところがしょうもない。
早朝の静けさの中、リノリウムの廊下を歩く、キュキュッという俺の足音だけが響く。
こんな朝もたまには気持ちいい。
ガラリと教室の扉を開けると、そこには既にもっさり頭の瀬名がいた。黒板消しを持ってぬっと黒板前に立っている。
「……はや。お、おはよ」
コイツの異常なコミュニケーション能力の低さは身を持って体験済みだ。
別に返事が返ってこなくても俺は平気だぜ。そんな事を考えていたら瀬名が言葉を発した。
「意外だな」
無駄にデカい長身の身体がもさもさした髪を揺らしてこっちを向いた。
「意外って……あぁ、まぁ言ってることはわかるけど。意外に真面目って言いたいんだろ、どうせ」
それしか思い付かない。が、瀬名は首を横に振った。
「は?」
ダサダサ眼鏡のレンズが厚すぎて瀬名の目がよく見えない。だから表情がイマイチよくわからない。それに拍車をかけて朝日が眩しく瀬名の眼鏡を照らす。光ってる。眼鏡が眩しい……。
「羽柴君の挨拶、真っ直ぐだったから」
「え……」
ドキっとした。
確かにさっきのおはようは何も裏がなくて、無意識のうちに発した言葉だったかもしれない。だからなのだろうか。
俺がいつも瀬名をはじめとするオタクグループを心の中で罵りながら接していたこと。それを指摘されたかのように感じた。
多分瀬名はそれを言っているに違いない。 ……そりゃばれるに決まってるよな。
だって嫌いなんだから。
「あ、なぁ、花瓶の水は取り替えた?」
「あぁ、やった」
「あっそう……」
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