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第15話

下校時刻を迎え、日誌を提出して帰るのみとなった放課後、俺にとって最悪な驚天動地の事件が起きた。 梅雨時ということもあり、朝晩は雨模様の日が多く、この日もまた昼過ぎから雨が降っていた。 本当ならば、自分で日誌を提出して「偉いぞ羽柴」と担任に少しでも印象付けたいところだが、俺の体はびくびくと震え怯えている。 窓の外から雷鳴が微かに聞こえ、時折ピカリと稲妻が走る。 日誌を提出?それどころじゃない。 一刻も早く、本格的に雷が鳴る前に帰らなくてはと焦っていた。 実は、雷がめちゃくちゃ苦手で、勿論一人にはなりたくないしなれないし。かといってそれを誰かに知られるのもイヤなのだ。 唯一知ってるのは風早と家族だけ。 風早には雷にびくついている姿を偶然目撃され知られてしまったが、こいつは本当にいいやつで、人間苦手なことは誰しもあると口外せずにいてくれた。 でもこれは風早だから内緒にしてくれているわけで。 正直カッコ悪過ぎるし、これは女の子だって引くだろう。 だから絶対誰にも気付かれたくない。勿論絶対、隣にいる|瀬名《こいつ》にもだ! 「あのさ瀬名、お前これ届けといてくんない?」 日誌を片手で持ち上げる。 ピカッと窓が光った瞬間、その手から日誌がバサリと音を立てて床に落ちた。 「いいけど……」 瀬名の低めで感情皆無な声。 「よ、よろしくっ」 床に落ちた日誌を拾おうとしたら、俺よりデカくて細長い節ばった指が俺の指と重なった。 その瞬間──。 バリバリ、ドーン!と、段々近付いてくる雷の音に身体がびくんと弾かれて、ひゅっと喉笛を鳴らしたかのような音が口から漏れた。 「…………」 はっと我に返ると瀬名がじっとこっちを見ている。 「は、はは、や、やだな、オタクと手が、重なっちゃって、……びびったぁ……」 やばい。──怖い! 強がって乾いた笑いを無理に吐き出した。 瀬名を前に俺は今どんな顔をしているんだろうと思う。うまく取り繕えているのだろうか。 これ以上の醜態を晒すのはゴメンだ。 ゆすりたかりなどしないだろうが、弱味を握らせたくない。 ……しかし何より雷が怖い。 正直になって雷に怯える自分を見せたら、もしかすると風早みたいに瀬名も見てみぬ振りをしてくれるかもしれない。 強がるよりも、きっとずっと精神的にも楽になるだろう。 ──どうする!? 俺のなかでオタクに醜態を晒したくないプライドと、みっともなくてもいいから雷への恐怖をどうにか和らげたいという気持ちがせめぎ合い渦を巻く。

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